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Magic & Dimension 13

●

 まだ起きていたのかとビックリした。既にやこたん組からもキノぽん組からも『ごめん、出なかった。今日はもう遅いから明日また頑張る』とチャットが来ていた。はるゆりが『気にすな。ありがとん』と返していた。


 ピグノズからのギルチャはこんな内容だった。

『カス杖、二本出た。でもコレすごいんじゃね? オーブも一個出た。誰に送ればいい?』


 ネームドオーブ『ヌンバ』の性能は『属性強化・MATK突発上昇(10秒間)』。


 使うとすれば俺かはるゆりだった。

『オーブははるゆりに』と俺は返信した。続けて『カス杖、何がすごいんだ?』と打った。


『一本は『木の棒』わら。でもオプション『スピアLv+4』付いてた』


 俺は目を丸くした。俺だけじゃない。全員。スキルLv+4なんて見たこともない。


「ど、どうしよう……」俺は動揺した。

「どうしようって、オプション転移するしかないじゃない」はるゆりが言った。

「でも、転移失敗したら消えちゃうよ?」

「消えないよう根性入れろ」

「俺じゃなくて鍛冶屋に行ってくれ」

「M&Dワールドの鍛冶屋が聞く耳持ってると思うか?」


 オプション転移すれば自分の杖に『スピアLv+4』を付けることが出来る。けれど失敗すればそのオプションは消えてしまう。成功確率はお金である程度上げられる。それでも最高60%。60%の成功率でも、マジディメの鍛冶屋連中は全然信用ならない。


『もう一本もコレすごいんだ。ぶっちゃけ呪いの杖だけど、今の状況なら関係ないんじゃね?』

『何なんだ?』

『悪魔の微笑み。しかも3スロ。あんど4オプ。オプは全部ゴミだけど』


 俺は腰を抜かすところだった。カスどころか超良品。ゲーム内なら使い道ないけど、ピグノズの言った通り『今のこの状況なら』関係ない。


●

 これが何故良品なのか分かってもらう為には、俺たちが使っている杖について少し説明しないといけないと思う。退屈かもしれないけれど少しだけ付き合って欲しい。


 例としてはるゆりが使ってる杖を挙げると、


パゴノロッド 2スロ4オプ

MATK+20%・氷属性魔法強化+20%・マックスMP+20%・クールタイム短縮0.5秒


 という、俺たちの中ではダントツの良品。どこが良品かと言うと、杖性能ではなく、スロとオプ。


 M&Dの武器は全て杖で、杖はヘッドにオーブを宿すことが出来る。オーブを挿しこむ穴が空いているというイメージでいいと思う。

 2スロとは2スロットの意味で、オーブを挿しこむスロットが二つあるという事。

 オプションは泥した時点でオプ数が決まり、3オプは4オプには出来ない。2オプは3オプに出来ない。オプション転移というのはオプションを差し替えるという事で、足りない部分に新たにオプションを足すことは出来ない。


 その意味で3スロ4オプというのはあり得る限りの最高品質という事。が、まず一つ。


 もう一つはユウキちゃんの使ってる杖を参考に見てみよう。


女神の微笑み 1スロ3オプ

Luk増30%・Vit値の半分をLukに加算


 はるゆりの杖がMATK+だとか属性魔法強化とか付いているのと比べて、ユウキちゃんの杖にはそれらが全く付いていない。時空魔導師の魔法成功率はLukに左右されるからコレはLukが極限まで上がる時空魔導師用の杖。例えばVitに300、Lukに300振っていれば、Lukが300+150になり、さらにその30%が加算されるという事。


 コレと対をなすのが『悪魔の微笑み』。性能は。


悪魔の微笑み

Int値の半分をCrtに加算・Dex値の半分をCrtに加算・Vit値1、HP1固定。


 IntとDexに振ったステがCrtに加算されるから、Crtが途轍もなく高くなる。その代わり強制的にHPが1になる。ドラクエだったら呪いの杖。ゲーム内ではフィールドダメージもあるし、ボスは属性波動放射することもあるから一発で死んでしまう、使い物にならないネタ杖。極端な話、歩いているだけで死んでしまう。


 でもこの現実世界では。HPなんて関係ない。


●

 俺は送られてきた杖を持て余した。正直、ドキドキが止まらなかった。

「どうしよう……」同じセリフを繰り返すと。

「どうしようもクソも、度胸決めてオプ転移するしかないだろ」強い口調ではるゆりは言った。はるゆりも目の色が変わっていた。血走っていた。

 ユウキちゃんもドキドキしているみたいだった。目をパチパチして俺のゲーム画面覗き込んでいた。


「どこの街の鍛冶屋が一番上手でしょうか」

「どの街の鍛冶屋も全く信用ならない」

「ですね」

「確かに……」

 確率は同じ。長年このゲームやってきた。体感で鍛冶屋の成功確率はどこも全く同じだった。俺は覚悟を決めた。古都マピへワープした。


「マピ?」

「モスカさんですか」

「うん……、一番付き合い長いから……」ゲーム内ではそんなこと全く関係ないと分かっていても、俺は藁にもすがる思いだった。コイツはきっと……、コレがどれほど重要な決断か汲んでくれる……、そう思いたかった。


 マピの町外れ、全く無表情で突っ立っているモスカの前に立った。タップすると。

『どうした。坊主。依頼かい?』無表情のまま言った。言ったというのはおかしい。セリフが表示された。

 コマンド選択『オプション転移』をタップした。指が震えた。

『オプション転移だな。それでいいんだな』念押し鬱陶しい。

『俺たちも商売でやってる。地獄の沙汰も金次第というように、お前の払う金額次第で俺たちのやる気も変わる。お前はどれだけ払える?』

 俺は金額の矢印ボタンを押し続けた。金額が上がるにつれ表示された成功率も上がっていく。成功率60%で止まり、それ以上は払いたくても払えない。

『ほう。結構な金額だ。これだけ貰えば成功間違いなしだ。俺様が言うんだから確かだ。じゃあ始めるぞ。いいか?』このセリフが全く信用ならないことを俺たちはよく知っている。

 ここで『はい』をタップすれば次のセリフは、

『残念だったな坊主。ま、こんなこともあるさ』か、

『ふう、我が生涯きっての傑作だ。大事に使えよ』のどちらか。

 俺は顔を上げて皆んなの顔を見回した。皆んな固唾を飲んで見守っていた。


「もしも失敗したら。コイツを殺してくれ」

「それが出来るなら全プレイヤーから既に万回殺されてるよ」


 はるゆりの軽口も全く心の養分にならなかった。


「失敗したら立ち直れない」

「大丈夫死ぬわけじゃない。死ぬ確率が少しばかり高くなるだけだ」


 笑えない。


 俺は顔を上向け目をつぶった。心頭滅却と三回繰り返して、カッと目を見開き『はい』をタップした。目を閉じた。俺はここ一番に弱い。俺の人生はずっとそうだった。次に画面に表示されるセリフはきっと、……。分かっている。言うセリフも決めていた。『てめえには職人の矜恃ってないのかっ!』恐る恐る目を開いて「てめえ」と言いつつ画面見やると。


 無表情のモスカ。けれどセリフが輝いていた。

『ふう、我が生涯きっての傑作だ。大事に使えよ、坊主』


「うおー」俺は叫び、仰向けに転がった。歓声があがった。はるゆりとユウキちゃんが抱き合って。はるゆりは次に豆さんにも抱きついた。コイツ、ドサクサに紛れやがって……。快感物質であふれた脳内の片隅でチラリと思ったけれど。あふれ出る快感物質で押し流された。


 悪魔の微笑み。スピアLv+4。ゲット。


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