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Magic & Dimension 9

●

 はるゆりはユウキちゃんを連れて湯布院散策に出かけていた。豆さんから聞かされて俺は呆れた。台風襲来時に暴風域を散策するようなもんだ。いや、それよりもっと酷い。


 豆さんはゲームにログインして、タブレットでウィキを開いて、何やら調べ物してメモを取っていた。


 俺はタオルを頭にかけたまま、とりあえずゲーム画面を開き、さっき知り合った人にフレンド申請を送った。相手もログインしていたらしく、すぐに認可して貰えた。チャットが来た。こっちのパーティ構成を教えて欲しいということだった。返信すると相手は驚いた。

『ビーストテイマー無し? よく生き延びれたね。壁はペットMOB必須だよ』


 俺は豆さんに風呂で知り合った人のことを話し、チャットの内容を伝えた。


「だろうね」と豆さんは言った。

「スキルはペットも巻き込むみたいなんで、テイマーがペットヒール連打しながら戦うそうです」


 テイムしたビーストは一般的にペットと呼ばれる。『ペットヒール』はテイマーのスキルでペットにしか効かない。ペットの回復はビショップには出来ない。要は、ペットを壁役にして戦うと、(ゲーム内では味方スキルはペットを傷つけることはないが)現実世界ではペットも巻き込んでしまう。なのでペットヒール連打しながら戦う、ということだ。


「うん。だろうね」解っていたらしく、豆さんは同じセリフを繰り返した。


「まず」と前置きして豆さんは話し始めた。「敵にスキルを使っても、コマンドログには『対象が存在しません』と表示されていた。気づいてた?」


「いえ。テンパってたので」


「俺が自分にヒール打てば回復するけれど、そもそも俺のHPは全く減っていない。ゲーム内と現実はリンクしてないんだ。当たり前だけど。でも、現実には、一撃でも喰らおうもんなら俺は即死する。俺が死んでもゲーム内キャラは無傷だけど」


「ですね……」そこは、一応、俺でも分かっていた事象。


「ところで気づいてた? ポケットワイファイの通信状態が安定していた。あんな山の中なのに。常にアンテナ全立ち。俺、思ってたんだ。ポケットワイファイ繋がない方が通信状態良いんじゃないかって。ちょっと郡部に行くと俺のポケットワイファイ途端にアンテナ立たなくなるから。ところが実際は、繋がりにくいどころか、常にアンテナ全立ち状態」


 流石だと思った。あの状況で、自ヒール連打して逃げ回りながら、ワイファイの通信状態まで確認していたなんて。俺はアロレ撃つのに必死で、周りがまるで見えてなかった。


「で。仮説を立てたんだ。この雲の下は異次元空間の電磁波、分かりやすくゲーム内用語の『魔素』って呼ぶけど、魔素が充満しているんじゃないかって。で、通信状況は安定、異次元の生命体であるテイマーのペットも実体化出来る。よるおすのアロレも現実の矢の雨になる。スマホのスキルタップに反応してスキル通りの結果をもたらす。結局スマホって電波だろ。つまり。消えた開発者は、この異次元のことを知っていて、この異次元生物に有効な電磁波を発するようにマジック&ディメンションを設計したんじゃないかなって思ったんだ。どう?」


「どうって……。今のところ異論を挟む知識も情報も無いです……。でも、スマホの電波って中継局を通って……なんかややこしい手順を踏んで戻ってきてスマホに反映されるんじゃ?」


「うん。だから、中継局云々関係なしに。スマホから出た電磁波に『魔素』が反応して色々起こってるんじゃないかな」


「なるほど……」


「じゃあ、この仮定が正しいとして考えてみよう。マジック&ディメンションのスキルは、こちらの生命体には効果無い。ヒールもリザも座標移動(テレポーテーション)も分身も。けれど異次元生命体には効果ある。アロレも白(はく)も、全ての攻撃スキルは通る。ペットに対するヒールが効果あるのも、これで説明できる。スキルがペットを巻き込む事も。プレイヤーの能力を上げる支援魔法、これも効果ある。アンプリファイア、ジョブ解放、種族値増強。信号発信前のプレイヤーを強化するから、信号自体が強化された状態で発信される。ただ、これは仮説に従えば中継局を経由してスマホに反映されてなきゃいけない事になるけど」


「なるほど……」矛盾点を探してみても、俺の頭じゃ思いつかなかった。全部納得できた。


「仮定だけどね。でも、この仮定に沿って、ステ振りもスキル構成も考え直そうと思うんだけど、どう?」


「良いと思います」俺も現在のスキルを考え直したかった処だ。豆さんの仮説に従えば、今の状態が全部上手く説明できる。漫画的だけれど。現実に漫画的なことが起こっているのだからこれが現実的な考え方。日本語的に変だけれど。


「今までのプレイスタイルは、俺が壁役で自ヒール連打してタゲ取ってたけど、そこは変えようがない。でも、HP盛りは何の意味もないからHP系オプションは全部捨てようと思う」


 堅いビショップだった豆さんが紙になるのか、それはそれで心細い気がした。

「どこかからビーストテイマー引き抜いてくるとか、出来ないでしょうか。それか、俺たちもサブキャラで運テイマ持ってますから、誰かのをステ振りし直して壁テイマにするとか」


 豆さんはあきらめ顔で笑った。

「どこも人手不足だから引き抜きは無理だろうな。高レベルのビーストテイマーは引っ張りだこだろう。俺らのサブキャラはレベルが足りない。ステ振りしなおしても、降臨ボス相手に壁は無理だと思う」


「ですね……」俺もあきらめ顔作って頷いた時。


 ノックもなく勢い良く扉開いて、はるゆりがユウキちゃん引き従えて戻ってきた。手にはビールやジュースやお菓子がシコタマ詰まったコンビニのレジ袋提げて。


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