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「へぇ、広告……。あら、キレイな絵まで描いてるんだねぇ~。これを売るのかい?」
「はい。その広告に書いているような、ケーキを販売するお店なんです」
「この絵みたいなケーキを? へぇ、こんな見た目のケーキがあるんだねぇ……」
「実は、ナールング肉店のカベに、その広告を貼らせて頂けないかと思いまして」
私の描いた絵を不思議そうに眺めるエマさんに内心、祈るような思いでお願いするとエマさんは気持ちのよい笑顔を返してくれた。
「そりゃあ、勿論かまわないよ!」
「ありがとうございます。エマさん! あの、これお礼と言っては何ですが……。クッキーを作ったので、良かったら召し上がって下さい」
「おや、うれしいねぇ! ありがたくいただくよ!」
あふれんばかりの笑みで、クッキーが入った小袋を受け取ってくれたエマさんに私は、中身のことを説明せねばと思いいたる。
「そのクッキー、実はケーキにするのと同じ方法で、クッキーにデコレーションしてあるんです」
「え? クッキーをデコレーション?」
「はい。開けてみてください」
「どれどれ……。こりゃあ、驚いた!」
小袋の中には花やアヒルの形をした黄金色のクッキーに、白いアイシングクリームで美しくデコレーションがほどこされている。そう、私が手土産にと用意したのはアイシングクッキーだったのだ。
花の形をしたクッキーを手に取ったエマさんはアイシングクリームで、白い花びらが一枚一枚、描かれたアイシングクッキーを見て目を丸くしている。
「デコレーションの部分は砂糖と卵白ですから、普通に食べることができます」
「へぇ。セリナお嬢ちゃん、あんたスゴイ物を作るんだねぇ……」
「いやぁ、これ意外と簡単に作れるんですよ」
キメの細かい純粉糖と卵白を混ぜ合わせて作った、アイシングクリームは割と簡単にクッキーのデコレーションが可能なのだが、この世界では、やはり珍しかったようだ。
「こんなに綺麗なクッキーなら、飾っておきたいわねぇ~」
「あはは。ありがとうございます。でも長期間の保存は難しいと思いますから、今日中に召し上がって下さいね」
エマさんに、そう告げて私はナールング肉店を後にした。何しろ、このアイシングクッキーには保存料などが一切、使用されていないので日持ちしない。
ビンなどの密封容器に入れた上で乾燥剤でも入れておけば多少は保存できるだろうけど保存料、乾燥剤、密封容器、すべて無い状態で簡単な手土産として、小袋に入れて持ってきたので、品質を考えれば今日中に食べてもらうのがベストだろう。
それにしても思いの外、反応が良かったので、あの分ならアイシングクッキーがエマさんのうわさ話のネタになるだろうし、相乗効果で新店舗の宣伝になることも期待したいところだ。