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一通り、双子にリフォーム内容を説明し終わった後、私は改めて店舗の前に立つ。店舗の看板には『パティスリー・セリナ』の文字がくっきりと記されている。店名をどうするか、悩んだがシンプルなのが一番だろうと、この名前にしたのだ。
「これから、がんばらないとね……」
自分の店を持つということは、全ての責任が自分の双肩にかかるということだ。この店が潰れるのか、繁盛するのかは私次第だろう。
店舗の外観を見ながら思う。リフォームした店舗は確かに綺麗だ。だからと言って黙っていても客が入ってくれるのかと言えば、世の中そんなに甘くはないだろう。
「食べてもらえれば、ケーキが美味しいことが分かってもらえるとは思うけど。まずはお客さんに興味を持ってもらって、店に足を運んでもらわないと話にならないわよね……」
何もせずに、ただ商品を作って店頭に並べているだけで、作ったそばから売れていくなら世話はないが、そんなに上手くいくはずがない。そもそも、この街に住む多くの人は、この『パティスリー・セリナ』がいつからオープンして、何を売るのかも全く知らないのだから。
私は店舗のオープン日と『パティスリーセリナ』の販売商品についての広告を作成し、それを人目のつく場所に貼り出すことにした。広告には分かりやすいように、定番のケーキなどを絵で描いて商品を簡単に説明してある。
肝心の広告を貼る場所は、やはり商売をやっている店にお願いするのが良いだろうと、手土産を持ち、まず訪ねたのは店舗近くにある肉屋、ナールング肉店だった。
このナールング肉店にいる恰幅の良い女性。エマさんはうわさ話が大好きで一日中、色んな人とおしゃべりをしながら店頭で仕事をしている。
こういう、おしゃべりが大好きな人に、口コミで新店舗の情報を伝えてもらえたら、非常に宣伝効果が高いだろうと思ったのだ。
「こんにちは、エマさん」
「ああ、セリナお嬢ちゃんじゃないかい。もうリフォーム工事は済んだのかい?」
「はい。おかげさまで無事に終わりました」
「そりゃあ良かったね! おや、その紙はなんだい?」
恰幅の良いエマさんは陽気に笑った後、私が肩からかけたバッグの中から見える複数の紙が気になったようで、軽く首をかしげた。
「あ、実はこの紙についてお願いがあるんです」
「お願い?」
「この紙は新店舗の商品内容と、オープン日を書いた広告なんですが……」
説明しながら、私はバッグの中から広告を一枚取り出してエマさんに手渡した。