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リフォーム工事も無事終わり、いよいよ空き店舗に引っ越すことになった。その前に、どこの引越し業者に頼むべきか迷い、やはり「見積もりだけならタダ!」だと複数社見積もりをしてもらった所、業者によって値段が倍以上も違うことが分かり心底、複数社に見積もりしてもらって良かったと痛感した。
そして、不動産見積り時のように設置看板が多く有名で、信頼と実績を売りにして『業界、最安値!』を売り文句にしている『ディーグレンツェ引越しサービス』という会社が、最も高い見積価格を提示してきた。
すでに不動産屋の見積もりで経験していたので、大手企業がぼったくり価格を提示することに耐性がついていた私は、引越しの依頼について他社にお願いすると伝えたのだが、その時、ディーグレンツェ引越しサービスが中々、引き下がらなかったのがちょっと面倒だった。
邸宅内から持ち出す荷物を説明し、見積りをしてもらった時のことだ。例によって「お安くさせて頂きました!」という言葉と、にこやかな営業スマイルと共に提示された見積り金額を見て、私は淡々と返事をした。
「ディーグレンツェ引越しサービスさんのお値段でしたら、他の引っ越し屋さんの方が安かったので、他の引っ越し屋さんにお願いしたいと思います」
「えっ! 」
「せっかく、見積もりして頂いたのに申し訳ないですが……」
手短にお断りして早くお帰り頂こうと思ったのだが、営業マンは私の言葉をさえぎった。
「ちょっと待って下さい!」
「はい?」
「それなら、ウチも値引きします!」
「でも倍以上、他社と見積りの価格が違うんですよ?」
さすがに、これだけ価格差があれば引き下がるだろうと思ったのだが、営業マンはドヤ顔で口角を上げた。
「それなら半額引きにしてサービス料金を削れば、そこよりもウチの方が安くなります!」
「えぇ……」
どうやら会社の営業として一件でも多く仕事の依頼を受けると同時に極力、高い値段で仕事を請け負うのが良い営業マンらしいので、例によって引越し業界の適正価格を知らない上に、貴族だから金を余るほど持っているであろう小娘から、ぼったくってやろうと思われたらしい。
そして、すでに私が複数見積をして他社から適正価格を提示され、相場を把握していたと気付いたとたん、手のひらを返して一気に半額以下まで値段を下げたのだ。
最終的にディーグレンツェ引越しサービスは、私から他社の具体的な値段を聞くと、それよりも安い値段を提示してくれた。確かに結果的にはディーグレンツェ引越しサービスが提唱している『業界最安値』になった訳だ。
しかし、私は最初に相場の値段より倍額の価格提示をされた訳で、複数社見積をしていなかったら危うく、そこそこの金額をぼったくられる所だったのだ。
何も知らない相手を、ぼったくろうとした会社に依頼する気にはなれず結局、最初から良心的な価格を提示してくれた引越し屋さんに依頼することにした。
ディーグレンツェ引越しサービスの営業マンは、仕事の依頼を一件逃してしまうことになった訳で、非常に悔しそうな顔をしていたが他社の値段を聞いた途端「じゃあ、安くします」と半額以上の値引きをしたからといって、利用者が自社を選ぶと思ってるなら大きな間違いだろう。