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 自信満々に答える双子が、私の作ったケーキを本当に気に入ってくれているのだと感じられて、嬉しい気持ちもあるが、やはり接客をする上でその言葉は差し支えが出てくるだろう。


「うん。ありがとう。……でもね。すべてのお客様が『おいしい』とは思わないかも知れない」


「え」


「そんなことは……」


 表情を曇らせて言いよどむルルとララに、私は具体的な例を示すことにした。


「小さい子供や女の子は基本的に甘い物が好きだけど、高齢の方や男の人はバターや砂糖がたっぷり入っている、甘い物は苦手っていう人もいるわ」


「あ」


「たしかに……」


「だからね。お客様に商品をすすめる時に『絶対おいしいですよ』っていうのは避けた方が無難だわ。あとでクレームがくるリスクがあるから」


「じゃあ、なんて言ってすすめれば良いんですか?」


 本当にそうすれば分からないらしく、猫耳をショボンとたれさせる姿を見て、私は思わず表情がほころぶ。


「そうね……。しばらくしたら、売れ筋の商品とかも分かってくると思うの」


「はい」


「だから、迷っているお客様には『そちらの商品は売れ筋ですよ』とか『こちらの商品は一番人気ですよ』とかね」


「おお!」


「たしかに、その言い方なら人気商品を伝えただけ……!」


 猫耳がピンと立ち、双子の大きな瞳がキラキラと輝きだす。


「そうなのよ。人気商品を伝えることで『この商品は他の物より、人気や価値がある』とお客様は思う。つまりお客様の購買意欲をそそる……」


「それが販売促進なのですか?」


「そうね。販促の一つと言えるでしょうね」


「ほかにもあるんですか?」


 目を丸くするルルとララに、私はうなずく。


「うん。そうね。基本的に、あなた達には販売員として、お客様に『得をした』と思ってもらえるようにしてほしいの」


「得?」


「ケーキってね……。卵、砂糖、バター、小麦粉とかをたっぷり使って、一つ一つ手作りで。値段もそこそこ良い金額でしょう?」


「はい」


「たしかに安くはないです……」


 先ほど手渡した、ケーキの種類と価格を記した紙を見ながらルルとララは同意した。私としては、せいいっぱい良心的な価格設定にしたつもりだが、原材料に砂糖などの嗜好品を使っている関係で、どうしても割高になる。やはりお世辞にも安いとは言えないだろう。



「うん、でもね。それだけ値段に見あった『良い商品』だっていうことをお客様に説明してほしいの」


「でも、どうやって? 『おいしい』って言っちゃいけないんですよね?」

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