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もう一段、上の接客と言われても抽象的でよく分からないのだろう。ルルとララは困惑しながら首をかしげた。
「そう。普通に『いらっしゃいませ』『ありがとうございました』と笑顔で接客するのは並みの接客」
「並みの接客……」
「もちろん、笑顔もなく『いらっしゃいませ』『ありがとうございました』を言わないって、接客態度の店も世の中にはあるけど、それは論外」
「論外……」
「まず、覚えてほしいのはウチの店で売っているケーキの商品名……。そしてどの商品には、どんな材料が使われているのか。これも基本として覚えてほしいわ」
私は店舗で販売予定の主力商品になるであろう、オーソドックスなショートケーキ、フルーツケーキ、チョコレートケーキ、パイなどの商品名と断面図、原材料、各ケーキの価格を記した紙を双子に渡した。
「おお……」
「は、はい。……これを覚えるんですね」
「うん。これは商品の基本的なことだし、お客様から必ず尋ねられることがあると思うから、絶対に覚えておいてほしいの」
「わ、わかりました……」
「ケーキの種類と材料、お値段も覚えます……」
私にしてみれば、ごくごく基本的な内容だが、初めて目にするケーキの名前や使用されている原材料まで全て把握するのは大変だと思ったのだろう。ルルとララはごくりと生ツバをを飲み、深刻そうな表情で手渡された紙をジッと見つめている。
もっとも、その紙に書かれている基本のケーキについては店舗のオープンまでに全種類、ルルとララに食べてもらうつもりだし、今まで彼女たちの勉強を見てきて語学や数学、歴史などを学習してきたのをふまえれば毎日、食べながら主要な材料を覚えるのなら全く問題ないだろうと思った。
「そして、ここからが大事なんだけど、ウチに買いに来るお客様に『販促』をしてほしいの」
「はんそく?」
「反則?」
困惑して首をひねる双子に、私は言葉足らずだったと苦笑した。
「販促っていうのは『販売促進』のことよ。つまり、商品がより、売れるように『セールストーク』をしたり、商品の説明書きをした紙を貼ってお客さんに良い商品だっていうアピールをすること」
「セールストーク……」
「説明書き……」
「たとえば、ここにケーキがある。私はお客で、あなた達は販売員。客である私は、ケーキを買うのを迷っている。あなた達は販売員としてケーキを売りたい。どうする?」
「『ケーキおいしいですよ!』 って言います!」
「そうです! 『ケーキおいしいから絶対食べるべきです!』って言います!」




