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「国レベルで保護されてる聖女って『奇跡を起こす』って言われてる位だから、自然災害を事前に予知して住民を避難させたり、戦争が起こるのを予知し、国の備えを万端にするとか、そういうのが求められるんじゃないの?」


「まぁ」


「確かに……」


「はっきり言って私。そういう大災害予知なんて、これっぽっちも出来る気がしないわ!」


「ううむ」


「私『ざんねん聖女』とか呼ばれたくないわ!」


「ざんねん聖女……」


「そうだな……。国に報告するかは、もう少し様子を見てからにするか」



 こうして現状は明確に聖女であるという根拠が薄く、予知夢はあくまで偶然かも! 『ざんねん聖女』と呼ばれたくない! という主張が何とか受け入れられ国への報告は様子を見てからということになり、私はひとまず安堵の息をついた。



 ちなみに、一般的な常識として『聖女』らしき者が見つかれば、すみやかに国家が保護しなければならない為、国民には報告の義務があるそうだ。


 特に国とのつながりが強い貴族なら尚のこと。しかし、私が聖女かも知れないという国への報告については確信が持てない為、ひとまずタナ上げとなった。その後、私の魔力はどんどん強くなっていった。



 そんなある日のこと、廊下から何か落ちたような大きな物音が聞こえた。何事かと駆けつけてみれば、階段の下で母が、うつぶせになって倒れている。



「うう……」


「お母様!? どうしたの?」


「階段で足をすべらせてしまって……。痛っ!」


 上半身を起こして、立ち上がろうとした母だったが苦痛で顔をしかめて、その場にしゃがみ込んでしまう。


「どこが痛いの?」


「脚と腕を打ってしまったわ」


 みけんにシワを寄せながら母がダークグリーンのスカートのすそを上げれば、階段を落ちた際に打ち付けたのだろう部分から、出血し真っ赤な血がにじんでいた。


「血が出てる!」


「だ、大丈夫よ。これ位……。くっ!」


「お母様! 無理しないで!」


「これは……。お医者様にかかった方が良さそうね」


「待ってお母様。私、治せるかも」


 以前、魔道書を読んでるときに回復魔法についても興味を持って熱心に調べていた。試しに偶然、家の庭でひなたぼっこをしていた、傷ついたノラ猫に回復魔法をかけて、無事に小さな傷を治癒させたこともある。


 人間にためすのは初めてだが、おそらく大丈夫なはずだ。そう思いながら母の脚に回復魔法をかけると、みるみる内に傷口がふさがった。


「これは……?」


「回復魔法よ! じゃあ、次は腕ね! お母様、ケガしてる方の腕を出して」


「ええ……」


 母が差し出した血のにじむ腕に、先ほどと同様に回復魔法をかければ、あっという間に傷がふさがった。


「傷は治癒できたわ。もう痛くない?」


「痛くないわ……。完全に治ってる」


「良かったわねお母様! これでお医者様にかからなくてもすんだわね」


 無事に回復魔法が成功し、満面の笑みで母に微笑みかけたが、母は深刻な表情だ。


「ええ……。でも、セリナ」


「ん?」


「むやみに人前で、回復魔法を使わないと約束してちょうだい」


「え、なんで?」


「回復魔法の素養がある者は少ないの……。周囲に知られると」


「っ! 分かったわ。気をつける」


 母の言わんとしていることを察し、うなずく。ヘタに回復魔法が使えることが周囲に知られて、聖女疑惑をかけられたらと考えると面倒な予感しかしない。母からの忠告に感謝した。


 そんなことがありながら、使い手が少ないという回復魔法の素養もある私は、さらに聖女として予知能力に目覚めてしまうのではないかと戦々恐々としていたが、短期間で二度も予知夢を見たことがウソのように、その後パッタリと予知夢を見ることは無く、やはりあれは偶然だったのだと思うようになっていった。



 二度ほど予知夢を見てしまった事と元々の魔力の高さもあって、一時は両親から『聖女』なのではないかと思われてしまった私だったが、その後は予知夢を見なかった為、国に報告されるまでには至っていない。


「そもそも人より、魔力が高いのは間違いないっぽいけど『奇跡』なんて起こせないし『未来予知』らしき夢も幼少期にたった二回だけだものね……」


 しかも肝心の予知夢も『おじい様のギックリ腰』と『おばあ様の入れ歯』を夢で見たという微妙極まりない内容だ。


「こんな実績をひっさげて『聖女でございます』とドヤ顔で出て行けるほど、私のツラの皮は厚くないわ……」

 

 万が一、こんな私が『聖女』だと認定されて国同士が戦争するような事態になったら最悪だ。とにかく平凡、平均を目指して目立たないように生きていくのが無難だろう。


 そんな思いを抱きながら私は成長し、やがて我が金獅子国の王侯貴族が通う、王立学園に入学することになった。

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