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リフォーム前にご近所へのあいさつを済ませた後、さっそく業者さんにはリフォーム工事に着手してもらった。一応、魔道具店のコルニクスさんに伝えたとおり、リフォーム業者へ騒音についての話は通しておく。
「あの……。リフォーム工事の際には、ご近所の方たちへのあまりご迷惑をかけたくないので極力、騒音が出ないようにして欲しいんですが……」
「いやぁ~。それは難しいというか、この規模で騒音が出ないようにリフォーム工事をするっていうのは無理ですよ」
「そうですよね……。あ、出来る範囲内で結構ですから」
無茶な要求をされ、困惑するリフォーム業者さんに私は苦笑した。まぁ、リフォーム業者としては当然、そう言うだろう。しかし、リフォーム業者にこう言っておくことで、私がコルニクスさんにウソをついた訳ではない。ということになるのだ。これであの気むずかしいコルニクスさんへの義理は果たした。
そして、ケーキを作る上で欠かせない材料、卵や牛乳についてはクルール牧場という所と契約を結ぶことが出来たので毎日、新鮮な卵や牛乳を入手するメドが立った。
リフォーム工事が始まってから、私は街の金物屋さんなどに行ってケーキを作って商売をはじめるということについて必要な道具、丸形のスポンジケーキ型や長方形のパウンドケーキ型、タルト型など商売をする上で必要と思えるサイズを集め始めた。
特に以前、ケーキを作った時には手元に無かった、クリームを美しくデコレーションする際に必要不可欠な立体口金は、私が描いた複数の図案を元に金物職人さんへ依頼して、オーダーメイドで作ってもらうことができた。これは後々、特にデコレーションケーキの類いを作る上でかなり役に立つだろう。
そして立体口金と一緒に使用する絞り袋。これは丈夫なコットン製の布地を使うことで、前世で広く使われていたビニール製の絞り袋にも引けを取らない使い心地が得られた。
ただし、布製だと充分に洗浄できていない場合、カビが生える恐れがある。衛生面の観点から布製しぼり袋は定期的に新品を使用する必要があるのだが、そこは仕方ないだろう。
そんな訳で入手したケーキ型やしぼり袋、立体口金を活用し、さっそく試作品として色んな種類のケーキを作ってみた。特殊な立体口金を使えば、簡単に複雑なデコレーションのケーキができるので作っていても、とても楽しかった。
「今日はオーダーメイドで作った立体口金を利用して、バタークリームのデコレーションケーキを作ってみたの。どうかしら?」
「ええっ!? 信じられない! クリームが、お花や葉っぱの形になってます!」
「すごい可愛いし、こんなキレイなケーキは見たことありませんっ!」
双子は立体口金と絞り袋を使ってデコレーションされたケーキを見て、とても驚いて感動しきりだった。実はいわゆる『ロシアンノズル口金』というタイプの立体口金があればクリームを絞るだけで簡単に、ローズやチューリップなど花の形をしたデコレーションをすることが出来るので、見た目ほど手間はかかっていないのだ。