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「こういう業界では有名なんですか? その、ホワイト不動産がそういう査定をするというのは……」
「なんというか……。同業者の話なので情けないことですが、ホワイト不動産は相手を見て査定価格をふっかける場合があるようですね」
「あ、やっぱり」
恐らくそうだろうとは思っていたが、グレイさんの言葉で自分の推測に裏付けが取れる形となった。
「セレニテス様はお若いですし、不動産売却は初めてと踏んで相場が分からないだろうから、安く買いたたいてもバレないと思ったんでしょうね」
「そうですよね……。やっぱり、そう見られたのかぁ」
「不動産の売買というのは普通は一生に何度もあることでは無いですし、シロウトには相場が全く分からないですからね」
「はい。私も最初は分からなかったです。だから、複数社に見積もりをお願いしたんですけど……」
「それが正解です。ホワイト不動産が有名企業だから、ここで間違いないだろうと一社だけの見積もりにしていた場合、ホワイト不動産の言い値で買いたたかれていたでしょうからね」
「こんなことをやって、ホワイト不動産は評判を落とさないんですか?」
率直に疑問をたずねれば、グレイさんはまゆねを寄せて大きく息をはいた。
「同業者や不動産に詳しい者の間では知られている話ですが、詳しくない方は全く気付かず、安値で物件を買いたたかれたりしているようですね」
「ひどいですね。大事な資産を……」
ホワイト不動産が信用できる会社だと期待して、見積もりを依頼した顧客も多かったはずだ。そして、私のように祖父母が残してくれた家を売却して、何とか今後に生かしたいと考えた人も少なからずいただろう。
それを、どうせバレないだろうと考えて、相場とかけ離れた値段を提示して暴利をむさぼるなんて信じられない思いだった。
「まぁ、商売という面で考えれば安く仕入れて高く売るというのが一番効率が良いですし、そういう営業方針でホワイト不動産が短期間で業界ナンバーワンになったという面もあるんですが……」
「でも利用者が私みたいに、安値で査定されたことに気付いたら、ホワイト不動産の信用は落ちますよね?」
「ええ。ホワイト不動産だけで無く、業界全体の信用が揺らぎかねないので、そういうシロウトを騙すような形で、不動産売買をするのは止めて欲しいのですが……」
「でも、ホワイト不動産が祖父母の邸宅を安く見積もったおかげで、グレイ不動産さんが優良企業だって分かりました」
私が笑顔で答えればグレイさんは、ほんの少し表情をやわらげた。
「それはありがとうございます。ちなみに空き店舗というのは、どちらかお伺いしてもよろしいですか?」