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しまった。フローラに会った直後だったし、ケヴィン君を見かけて、きっと必死の形相に近い物があったのだろう。
ケヴィン君が私がローザに伝えたかった話の内容を聞きたがっている。しかし、何も知らない弟君にフローラの話をしても仕方ないことでもあるのだ。どうしようか迷った挙げ句、私は思いついた。
「じ、実はね……。私、そこの噴水広場に面してる空き店舗で、商売を始めようと思ってるの」
「へぇ……」
「これから店舗のリフォームもあるし、今すぐって訳でもないんだけど……。一言、ローザに伝えておきたくって」
苦笑しながら取りつくろえばケヴィン君は納得した様子でうなずく。
「分かった。今度、姉さんに会うとき伝えておく」
「うん。ローザによろしくね」
事実を告げることでケヴィン君を誤魔化し、彼に手を振って別れた後、ホッと胸をなで下ろして双子と共に歩き出す。
「セリナ様、今度はどこへ行くんですか?」
「ん。もう、着いたわ」
「ここですか?」
「グレイ不動産?」
目の前には『グレイ不動産』と書かれた看板とこじんまりとした店舗がある。そしてグレイ不動産の店頭に設置されている掲示板には複数の物件の間取りが書かれた紙が貼り出されていた。そして、その中には祖父母が残した邸宅もある。私は店舗のドアを開いた。
「こんにちは」
「これは、セレニテス様」
店舗の中に入るとグレイさんが書類を眺めながらチーズハムサンドを食べていた。
「ごめんなさい。休憩中でしたか?」
「いえ、構いませんよ。どうぞおかけになってください。今日はどのようなご用件でしょうか?」
グレイさんにうながされ、私と双子は店舗内にある来客用のイスに腰かける。
「実は先ほど、空き店舗の買い取り前提で賃貸契約をしてきたんです」
「ほぉ。賃貸契約を……」
「それで、その空き店舗のリフォームが必要なのですが、グレイさんなら良いリフォーム業者さんをご存じなんじゃないかと思って」
「なるほど。そういうことでしたら、ウチがよく利用している業者をご紹介できますよ」
「お願いします。グレイさんの紹介なら安心だと思うので」
期待通りの返事をもらえて、私は思わず笑顔になった。しかし、グレイさんの方は私の言葉に引っかかる物があったようで、わずかに方眉を上げた。
「それは光栄ですが……。もしかして、ほかの不動産屋とトラブルでもありましたか?」
「トラブルというほどでは無いんですが……。実は複数の不動産屋さんに見積もりをお願いしていたんです」
「ああ、複数の見積もりを依頼するのはごく当たり前のことですからね」
「はい。それでグレイさんの後に見積もりをしてもらった有名な不動産屋さんに、すごく安い値段を提示されて」
「有名な不動産屋……。もしかしてホワイト不動産ですか?」
「その通りです!」
「やっぱり……」
私の返答を聞いたグレイさんは息をはいて、やや肩を落とした。




