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「それは……」
「あなた。もしかして、これは国に報告しないといけないんじゃ……」
「いや、まだ決まったわけじゃない。報告するのは時期尚早だろう」
「でも……。これが『聖女の予知夢』なら報告の義務があるのでしょう?」
「ああ。それはそうだが、我が娘が『聖女』だと認定されれば、国の保護下に入らねばならない……」
「国の保護下……」
「過去の例から考えると神殿に入れられて、そこで厳重に守られる」
「神殿……」
父と話をしている母の顔から、どんどん血の気が引いていくのが見える。ドアのすき間から両親の話を盗み聞きしていた私は、なりたくもなかった聖女疑惑が濃厚になっていたことに気付き愕然とした。
聖女は『奇跡が起こせる』とは聞いていたけど、まさか『予知夢』という形で未来予知するなんて思ってなかったのだ。しかし、まだ二回しか見ていない。偶然という可能性もある。
「どちらにせよ仮にセリナが聖女だと認定されれば、これまで通りの生活はできないだろう」
「私達と引き離されてしまうのかしら?」
「そうだな……。本当に『聖女』として神殿に入れば、肉親とはいえ中々、会えなくなってしまうかも知れないな」
「そんな!」
「待って、お父様、お母さま!」
ショックを受ける母と困惑する父の様子に耐え切れず、私はドアを開けて叫んでいた。
「セリナ、おまえ……」
「聞いていたの?」
「うん……。その、私が『聖女』だなんて、ありえないわよ!」
「セリナ」
「予知夢っていっても、タダの偶然かも知れないし……」
「偶然にしては……」
そう、偶然にしては確かに私の見た夢は、予知夢と言われてもおかしくない符号が合い過ぎる。しかし、ここで認めてしまっては私は『聖女』認定され一生、神殿で軟禁生活を送ることになるかも知れないのだ。それは避けたい!
「仮に予知夢だったとしても、ぶっちゃけ微妙過ぎるわよ!」
「微妙って……」
「だって聖女の予知内容が『おばあ様の入れ歯紛失を予知』とか『おじい様のギックリ腰を予知』とか残念過ぎるでしょう!?」
「うっ」
「そう言われると……」
父と母が私の言葉に押されている。実際、国に『ウチの娘は聖女の可能性があります。祖父のギックリ腰と祖母の入れ歯のありかを予知しました』と報告するのは微妙な所だろう。これは、もう一押しだとたたみかける。