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「そうですか……。実はこの後、他の不動産屋さんに見積もりをお願いしているんです」
「えっ!」
「もしそちらより、ホワイト不動産さんの方が条件が良いようでしたら、ホワイト不動産さんにお願いしたいと思います」
私が笑顔で、他の不動産屋に見積もりをお願いしていると言った途端、ホワイト不動産の白豚はあからさまに顔色が青くなった。
「あ……。あのっ」
「それでは、次の不動産屋さんのお時間も迫っておりますので、どうぞお帰り下さい」
表面上は見事に貴族令嬢の笑みを貼り付けた私は、右手で玄関を示して帰社をうながす。内心「しまった! 相場がバレる!」とか思っているのだろうが、すでに複数社の見積もりを済ませていたので、白豚が私を騙そうとしていたことなど、とっくの昔にお見通しである。
白豚はひたいから流れる大量の汗をハンカチでふきつつ「ブヒブヒ」言いながら、涙目で何か言いたげに私の方を何度も振り返っていたが、なまじ「本来なら、もっと安いけどこのお値段にさせて頂きました!」「これ以上は値段が変わらないですね!」などと良心的な不動産業者の顔をしながら断言していただけに、今さら前言を撤回することは出来なかったのだろう。背中を丸めてトボトボと帰って行った。
悔やむなら、何も知らない小娘だと思って、だまくらかそうとした自分の浅はかさを悔やむべきだろう。それにしても、あんな笑顔で優良企業の顔をしながら平気で人を騙そうとするなんて、人間不信になりそうだ。
「業界最大手の有名企業だからって、必ずしも良心的とは限らないのね……」
思えば、王立学園に通っていた学生時代、通学路に複数設置されていたホワイト不動産の看板。あれにだって広告費がかかっていたはずだ。つまり、ホワイト不動産が広告費を使って業界最王手と呼ばれるほど、知名度が高いと言うことは、その宣伝費用を回収するため、利用者をぼったくってたという一面もあったのだろう。
ホワイト不動産が設置した看板、宣伝を信用して、ホワイト不動産のみ利用していたら私は相場の三分の一以下で祖父母の邸宅を買いたたかれていたのだ。恐ろしいことである。
「有名企業だから大丈夫だって頭から信用しないで、複数社に見積もりしてもらって本当に良かったわ……」
おかげで適正に物件を取り扱ってくれる不動産業者を選ぶことができるのだ。そんなこんなで結局、私は邸宅の売却を四社目のグレイ不動産におまかせすることにしたのだった。