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祖母が残してくれた宝石のおかげで資金に余裕ができた。あとはこの邸宅をいかに高く売却できるかだ。そんな訳で今日は二社目のブラック不動産屋による見積もりがあったのだが、これがひどかった。
「今、契約して頂ければ高く買い取りますよ!」
「へぇ、おいくらで買い取って頂けるんですか?」
「もちろん、相場より高く買い取らせて頂きます! この位ですね!」
「この位ですか……」
二社目のブラック不動産は元気よく、口では「高く買い取ります!」「相場より高い値段です!」と良いながら、一社目よりも安く買いたたいてきた。私を見て不動産相場など全く分からない小娘だと思ったのだろう。
私は「検討します」とお約束の社交辞令を述べて、ブラック不動産にはお帰り頂いた。次に三社目のゼブラ不動産は一社目と二社目の中間くらいの見積金額だった。
ブラック不動産ほど買いたたいてないと思いながらも、これは一社目が当たりだったのかと思いながら、四社目のグレイ不動産という所にも見積もりをお願いしていたので査定してもらうと、全く愛想のないグレイと言う名前のメガネをかけた不動産屋が淡々と見積もりをした後、見積書に数字を書き入れた。
「当社だと売却価格を、この金額に設定したいと思います」
「え、この金額ですか?」
驚いたことにメガネのグレイ不動産屋が設定した金額は、これまで一番高かった金額のさらに何割も上だった。
「ただし、これは一番最初に提示する金額で、買い取り希望のお客様との交渉次第で多少、低くなる場合が多いですが……」
「低くなるって、どの程度でしょう?」
「そうですね。一割以内の値引きにおさえたいと思っています」
「正直、今まで見積もりしてもらった、どの不動産屋さんよりも高く値段設定してもらったのでビックリしてます……」
私が率直に述べれば、グレイ不動産の人はメガネをクイッと上げた。
「ああ、それは当社があくまで仲介業者であり『仲介手数料』を頂いて経営している不動産業者だからですね」
「仲介手数料?」
「おそらく、先に見積もりをされた不動産業者は、完全に買い取る形で金額の交渉をしていたのでしょう」
「買い取りと仲介手数料を取るのは違うんですか?」
「ぜんぜん違いますね。もっとも買い取りにも仲介手数料にもメリット、デメリットがありますが……」
「買い取りと仲介手数料のメリット、デメリットって何ですか?」
私がたずねれば、グレイ不動産の人はまたメガネをクイッと上げて、不動産売却の流れという書類を見せながら説明をはじめた。