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「こうして、悩んでいても仕方ないわね……。出来ることをしましょうか」
「できること?」
「おばあ様は自分が死んだら、不要な物品は処分するように言ってたから、残された物品を整理しながら、売却できる物を整理しつつ、資金を工面できないか考えるわ」
「整理ですか?」
「ええ。不動産屋さんに家具込みの見積もりを出してもらったけど、古書や骨董品は専門の業者に買い取ってもらった方が良いかも知れないし、一度じっくり見てみるわ」
双子にそう告げて、私はまず祖母の部屋に入った。中にはベッドの横に、優美な曲線の猫足キャビネットや座り心地が良さそうな赤い布張りのアームチェア、そして祖母が身支度を整える際に長年利用していたのであろう、オーク材で作られた三面鏡付きドレッサーが置かれている。
「年期が入ってる代物だけど、この意匠とか中々の物よね……」
私は三面鏡付きドレッサーのトップにあしらわれた見事な花の意匠を手でなぞりながら独り言ちた。そして、ドレッサーの引き出しについている金具の取っ手を掴んで、引き出しの中身を見ようとしたがビクともしない。
「ん、中で何かが引っかかっているのかしら?」
よくよく見れば、ドレッサーの引き出しには小さなカギ穴がついていた。
「カギがないと開かないのね……。でも、ドレッサーのカギなんて一体どこに……」
困惑しながら祖母の部屋を見渡した時、ふと目の前にある三面鏡に自分の姿が映っているのが視界に入った。そして私の胸元には、銀のカギがついたペンダントがゆれている。
「もしかして、これ!」
祖母からもらったペンダント・トップのカギをドレッサーの引き出しにあるカギ穴に差し込み回せば、小気味よい金属音が響いた。
「開いた!」
金属の取っ手を持ってドレッサーを開けば、中には表面に細やかな植物の意匠が施されたライトブラウンの木箱が入っていた。
「なんだろう。この箱?」
首をかしげながら木製の小箱を開けば、そこには真っ赤に輝くガーネットのペンダント。美しいエメラルドのブローチ、紫水晶のイヤリング、真珠の指輪など複数の装飾品が収められていた。
「これは……。宝石箱!」
きらびやかに輝く複数の宝石を見ながら私は理解した。祖母は自分が死んだ後のことを考えて、カギがついた銀のペンダントを渡してくれたんだと。
「おばあ様……。ありがとう」
私は銀のペンダントを強く握りしめながら最後まで、孫である私を気遣ってくれた祖母の心遣いに感謝し、頬にひと筋の涙を流した。