67
私は翌日から早速、動き始めた。まず、この邸宅と使わない家具を売却せねばならない。不動産屋に連絡すれば、当日の内に見積もりに来てくれた。
「このたびは見積もりのご相談ありがとうございます!」
「こちらこそ、ご足労いただきありがとうございます」
私が笑顔で出迎えれば、七三分けで髪型を固めた不動産屋の男性は営業スマイルで話を切り出す。
「それで、売却を検討しているというのは、こちらの邸宅で?」
「はい、そうです。出来れば、家具も一緒に売却したいと思っているんですが……」
「なるほど……。では早速、見積もりをしたいと思いますので」
「お願いします」
不動産屋の男性は一つ一つの部屋を見て回り「ふむふむ」とうなづきながら、書類に何やら書き込んでいる。
「これで、すべての部屋を見てもらいました」
「では、今度は外観を拝見したいのですが……」
「はい。では、裏口から出ましょうか」
不動産屋が屋敷の外観を鋭い目でチェックする。正直、築年数が経っているので不動産屋の目線で見ると厳しいのかな。と思いながら、おおよその部分は見て回った所でたずねる。
「それで、どれくらいのお値段で売却できるでしょうか?」
「そうですね……。場所が郊外ということで。閑静な住宅といえば聞こえが良いですが、やはり中心部から離れていると言うことで、価格が安くなります」
「あ、やっぱり……」
「はい。さらに築年数が古く所々、老朽化でヒビ割れしている箇所なども見受けられました。大幅なリフォームが必要になると思われますので、やはりそういう面で価格が安くなります」
「そうですよね……」
「以上の点をふまえて家具込みの、お見積もりをさせて頂いたところ、このような価格でしたら買い取りさせて頂きたいと思います」
不動産屋が差し出した書類には私が想像していたよりも、はるかに低い価格が書き込まれていた。
「この価格ですか……」
「まぁ、場所と築年数を考慮すると、どうしてもこのような価格帯になってしまいます」
「そうですか……」
ひとまず、不動産屋から見積もりの書類をもらった私は「検討します」と伝えて七三分けで髪型を固めた不動産屋さんにはお帰り頂いた。
想像以上に買いたたかれることに頭が痛くなる。もっと高値で売れると思っていたのだが、見通しが甘かったと言わざるを得ない。
ただ、私が世間の相場というものを知らないので、相場とは大きく外れた価格をふっかけられたという可能性もある。念の為に複数の不動産屋に見積もりを依頼して、最も高く買い取ってくれる所に売却しようと気を取り直した後、私は外出した。