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「今日は食べやすい物が良いかと思って、リゾットにしてみました」
「ありがとう。美味しそうね」
ドライトマトが入ったことで赤い色味をおびたリゾットを食べれば、よく煮込まれた魚介の風味とドライトマトの旨味が米に染みており、噛むほどに美味しさが口の中で広がった。
野菜スープもキャベツやジャガイモ、にんじん、玉ねぎ、ニンニクなど、具だくさんの野菜がよく煮込まれて、やさしい味わいでだ。祖母の葬儀を終えたばかりで食欲が無いであろう私を配慮して、食べやすい食事を作ってくれた双子に感謝しながら、私は夕食を味わった。
食事を食べ終わると、双子は食後のお茶を用意してくれた。こういう話は早い方が良いかと考え、私は双子に話を切り出すことにした。
「ちょっと二人に話があるの」
「え?」
「なんでしょうか?」
ルルとララは猫耳をピンと立てて、私の方をじっと見つめた。
「おばあ様は生前、自分が死んだら、この邸宅を売却するように言っていたの」
「ここを……」
「売却」
「ええ。ここは郊外だし、生活するには少し不便だわ。だから、おばあ様が言ってた通り、この屋敷は売却しようと思うわ」
「そうなんですか……」
少し、猫耳をたれさせて双子は視線を床に落とした。彼女たちにとって住み込みで働いていた、この邸宅は愛着ある物だったのであろうことがうかがえた。
「うん。それで、私は一人で生活しようと思うの」
「え?」
「セリナお嬢様、お一人で!?」
「ルルとララはあまり知らないだろうけど、私の父が管理していた子爵家の領地はすでに手放して、人手に渡っているの」
「……」
「あなた達から見れば、私は貴族令嬢に見えるかも知れないけど、実際は没落貴族でね。金銭的に余裕があるとは言えないわ」
「そんな……」
言葉を失いショックを受ける双子に、私は何でもないという風に微笑む。
「それでね。あなた達、二人の為にも、他の職場に移った方が良いと思うの」
「えっ!」
「あなた達には語学や計算、魔法を教えたでしょう? ここで住み込みで雇われた時より、ずっと良い条件で新しい働き場所を見つけられるはずよ」
極力、明るい声音で言ってみたのだが双子はうつむき、スカートのすそをギュッとにぎった後、大きな瞳に涙をためて私を見上げた。
「ここより良い条件の職場なんてありませんっ!」
「え?」
「私も、そう思います!」
「ルル」
「孤児院育ちの召使いに勉強を教えて下さるような職場は他にありませんっ!」
「私たちに美味しいケーキの作り方を教えて、できあがったケーキを食べさせてくれる職場も他にはありませんっ!」
「ララ……」
私としては、軽い気持ちで勉強を教えて出来上がったケーキを渡しただけだったのに、双子にとっては大きなことだったらしく、私は驚く。