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 そんなことを考えながら歩いていると街の噴水広場に面した、二階建ての小さな店舗に張り紙が貼ってあるのが視界に入った。


「『空き店舗。入居者募集』」


「お嬢ちゃん。空き店舗を探しているのかね?」


「え?」


 声をかけられた方に振り向くと、そこには杖をついた白ヒゲの老人がいた。


「そこは店の奥に、厨房の設備がしっかりついておるよ」


「あなたは……?」


「おお、ワシはこの空き店舗の持ち主じゃよ。最近、腰が痛くての。厨房に立つのが、いよいよツラくなって隠居したんじゃ」


「はぁ」


 好好爺然とした風貌の老人からフレンドリーに話しかけられ、戸惑いながら相づちを打つと白ヒゲの老人は気を良くしたのか、さらに説明を始めた。


「この店は、この通り、噴水広場に面しておるから人通りもそれなりにある。店の立地は悪くないぞ」


「そうですね。立地は。でも、店舗としては小さいような……」


「まぁな。しかし、持ち帰りの店としてなら十分じゃよ」


「ああ。まぁ、そうですね……」


 持ち帰りの店としては十分というより厨房があっても、持ち帰り以外に店舗としては使えないだろうな。というのが正直な感想だ。


「それで、どうじゃ?」


「は?」


「この空き店舗のことじゃよ」


 白ヒゲの老人は期待に声をはずませている。しかし、私の方は偶然、通りすがって店舗が目に止まっただけなのだ。


「あ、ああ。ごめんなさい。ちょうど貼り紙が目についた物だから、立ち止まってしまっただけなんです」


「なんじゃ。そうなのか……」


「はい……。なんだか、すいません」


 ガックリと肩を落とす老人に何だか申し訳ない気持ちになって、軽く謝罪すると老人は気を取り直した様子でうなづく。


「しかし、立ち止まって考えたということは、そういう気持ちがあるということなのじゃろう?」


「え、いや、別に……」


「まぁ、これも縁じゃ。もし、気が向いたら訪ねてきておくれ。そこの裏道に入った所に住んでおるから」


「はぁ……」


 

  ローザと別れた後、空き店舗オーナーの老人と話した事もあって、祖母が残した邸宅に帰る頃には、すっかり日が沈みかけていた。


「ただいま」


「セリナお嬢様、お帰りなさいませ!」


「お帰りなさいませ! 夕食の支度、できてます!」


「うん。ありがとう」


 双子に上着を渡して服を着替えてからダイニングに行けば、美味しそうな香りが鼻腔をくすぐった。双子はハムとチーズと葉野菜のサラダに、魚介を煮込んだリゾットと野菜のスープを用意していた。

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