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 ローザは頬にオレンジスピネル色の夕日を受けながら、やわらかく微笑んだ。私もそんな彼女に笑顔を返す。


「ありがとう。王宮での仕事、大変だと思うけど、がんばってね」


「ええ。セリナも、とにかく、食事と睡眠をしっかり取って、身体を大事にして。あんまり無理しないでね」


「うん。ローザ、日が暮れる前に帰るんでしょう? そろそろ帰った方がいいんじゃない?」


「あ、そうね。弟やおば様が心配するといけないから、帰るわ。じゃあ、またね。セリナ」


「ええ、また」


 小さくなっていくローザの後姿と、長く伸びた彼女の影を見ながら考える。ローザは、ああ言っていたが、あまり親しくないローザの弟にお願いして、月に一回しかない姉弟の対面に、私が水を差すのはヤボという物だろう。それに王宮に行くというのは、私にとって敷居が高い。


 検閲が入るということで、気軽に手紙も書けないとなると、今後はローザと疎遠になってしまうだろう。一年契約と言っていたが、こういう雇用契約は問題がなければ翌年も契約が延長されるはず。


 侍女見習いとして雇用されたローザが正式に侍女となり、さらに働きが認められ上の役職に就けるようになれば、もらえる給金が跳ね上がるのは間違いないだろう。そうなれば、王宮で長く仕事を続ける可能性が高い。私は大きくため息をついた。


「ローザは仕事を始めるのに、私は……」



 これから邸宅に帰れば、きっと双子が夕食の用意をして私の帰宅を待ってくれているだろう。しかし、あの邸宅を売却して私が一人暮らしを始めるとなれば、二人も住み込みのメイドを雇う必要は無いだろう。


 客観的に見れば私は、没落貴族の身である。おまけに身寄りもない。ただ、邸宅を売却して慎ましやかに暮らせば、ローザへ言ったように当面の生活は心配ないはず。双子に関しては給金をどの程度、祖母からもらっていたのか知らないが、年若い住み込みメイドとして安く雇われていたはずだ。


 ルルとララは私が勉強を教えたので語学や数学、魔法もできるようになった。大きい屋敷に行けば、ゆくゆくはメイド長を務めることも可能なはず。ローザのおば様に口利きしてもらえれば、王宮で雇用してもらうのも夢ではないかも……。



「双子にとっても、私といるより、もっと給金の良い所で働いた方が幸せなはずよね……」


 安い賃金で双子を雇い続けることはしたくない。こちらの懐事情を考えれば、彼女たちに高い給金を払えないのだから、可愛らしい猫耳の双子と別れるのは寂しいけれど、これは仕方ないことだろう。私は大きく息を吐いた後、雲間からさす斜陽の光に目を細めながら一人帰路についた。

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