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「え?」
私に尋ねられたローザは一瞬、意味が分からなかった様子で軽く目を見開いた。
「ちょうど私と話したいことがあるって、さっき言ってたけど?」
「ああ、実はね……。学園に通ってた時、働きたいって言ってたでしょう」
「もしかして、ローザの就職先が見つかったの?」
「そうなの。でも、こんな時に私の就職なんて」
アクアマリン色の瞳に影を落とすローザに、私は首を横に振った。
「ううん。よかったわ。ローザ、働いて家計を助けたいって言ってたものね」
「うん……。今は特に、父が亡くなって、おば様の所にお世話になってるから……。弟の学費は私が稼ぎたいって思ってたし」
貴族の子弟が通う王立学園は、学費も相応だったはず。先日、学園を卒業したばかりのローザがそれを払えるほど給金の良い就職先のようで私は驚く。
「ローザの仕事は王立学園の学費が払えるほどなの?」
「一般的に考えれば、給金は良いと思うわ……。住み込みなんだけど」
「住み込み……? どこのお屋敷に行くの? 上級貴族の屋敷で家庭教師とか?」
上級貴族の子供に家庭教師をつけるというのは比較的、ある話だ。しかし、住み込みで家庭教師をするというのは珍しい気がする。私が首をかしげながら問いかければ、ローザは苦笑した。
「お屋敷じゃないの」
「違うの? じゃあどこで働くの?」
「王宮よ」
「は……? 王宮!?」
「うん。王宮で住み込みで働くことになったの」
「お、王宮で住み込みってまさか……。後宮? ハーレム!?」
驚きのあまり、思わず声が裏返ってしまった。そんな私にローザは周囲を気にして慌てる。
「ちょ、セリナ。声が大きいわよ!」
「ご、ごめんなさい……。でも、王宮って。ローザは国王陛下のハーレムに入るの?」
「セリナ……。考えてることは分かるけど、違うわ」
「違うの!?」
「ええ。私は侍女見習いとして、住み込みで働くことになったの。一年契約で」
「侍女?」
「後宮で国王陛下のお相手をするのは、お妃様や寵妃、側女といった人達よ。私は女官のお手伝いをする仕事なの」
「そばめ? 女官?」
聞いた事のない単語が出て、困惑しているとローザは微笑した。
「ざっくり説明すると、ハーレムの中でも身分の低い女性が側女よ」
「へぇ。女官は?」
「国王陛下のお母君や、国王陛下の伴侶であるお妃様とか身分の高い方に直接、仕える女性がいるのは分かるわよね?」
「なんとなく分かるわ」
「王宮内にいる身分の高い方に直接、仕えているのが女官よ」
「ローザは侍女見習いなのよね?」
「ええ。だから、お妃様に直接仕える女官の、その下にいる侍女の、さらにその見習いってわけ」
「複雑ね……」