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葬儀が終わり、双子と馬車に揺られながら邸宅に帰る。ぼんやりと外の景色を見ていると、街中を歩く人々の中に、見覚えのあるプラチナブロンドの少女が視界に入った。私は慌てて、馬車を操っている馭者に声をかける。
「馬車を止めてちょうだい!」
「え、セリナお嬢様?」
「どうしたんですか?」
突然、馭者に向かって声を荒げた私に、ルルとララは目を丸くして驚く。私の声が届いたようで、馬車はゆっくりと停車した。
「あなた達は先に帰って。ちょっと、友人を見つけたから」
「友人ですか」
「分かりました。セリナお嬢様、お気をつけて」
「ええ」
馬車を降りた私は、手に持った編みカゴに長いパンを入れた、美しいプラチナブロンドの少女に向かって駆け寄りながら、その後ろ姿に向かって声をかける。
「ローザ!」
「え、セリナ?」
私の声に反応して振り向いたプラチナブロンドの少女はやはり、学園時代の親友であるローザだった。よくよく見ればローザより頭一つ分、身長が低い金髪の少年も一緒だ。彼の顔は以前、少し見たことがある。確か、ローザの弟だったはず。
「よかった。やっぱり、ローザだった」
「その服、もしかして……」
「うん……。今朝、おばあ様が亡くなったの」
「そうなのね」
ローザは長いまつ毛を伏せて、アクアマリンのような美しい瞳に憂いの色を浮かべた。そして、横にいる金髪の弟に持っていた網かごを手渡す。
「ケヴィン。おば様が待ってるから、これを持って先に帰ってくれる?」
「分かった……。けど、あんまり遅くなったら心配させるから」
「ええ、分かってるわ。ちゃんと日が落ちない内に帰るわ」
金髪碧眼の弟、ケヴィン君はローザの言葉に頷くとパンが入った手編みカゴを持って、その場を後にした。
「ごめんなさい。私が声をかけたせいで……」
「いいのよ。私も、ちょうどセリナと話がしたいって思ってたから」
「ローザ……」
学園時代と変わらぬ、ローザの優し気な笑顔に、私は胸が温かくなるのを感じた。
「セリナは……。おばあ様の他に親戚は?」
「いいえ。母も父も兄弟がいなかったし、母方の両親は亡くなってるから」
「そうなのね……」
祖母が亡くなったことで、私に肉親はいないと知ったローザは悲し気に眉根を寄せた。
「でも、祖母が亡くなる前『自分が死んだら今住んでる邸宅を売るように』って言ってくれてたから……。私一人が生きていく分には当面、困らないと思う」
「セリナのおばあ様、そんなことを?」
「うん。ローザの方は?」