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「できたわ!」
「セリナお嬢様が作りたかったのは『栗のケーキ』だったんですね!」
「すごいです!」
正確には『モンブラン』を目指したのだが、なぜモンブランと言う名前なのかと言うと語源はアルプス山脈にある山が由来だったはず。
語源を追及されれば、前世の話になってしまう。おまけに絞り袋が無かったので理想のモンブラン像とは遠い。私は双子が言う通り『栗のケーキ』ということにしておこうと思った。
「本当は渋皮つきのマロングラッセを一番上に置いたり、ケーキの中にも栗をまるごと一つ入れたい所なんだけどね……」
「そうなんですか?」
「今回は、おばあ様に食べてもらうために作ったから、これでいいわ」
入れ歯で固い物が食べにくい、おばあ様のために食べやすさ優先で作ったケーキである。私は出来上がったケーキをナイフで切り分けて白磁器の皿に置いた。
「ルルもララも、お疲れさま。二人とも、これを食べて休憩してちょうだい」
「うわぁ! ありがとうございます、セリナ様!」
「嬉しいです! お茶と一緒にいただきます!」
出来上がったケーキを渡された双子は満面の笑みで下がった。その様子を見送った後、居室のソファに腰かけて刺繍をしていた祖母にお茶の時間、出来上がった栗のケーキを出せば、祖母は軽く目を見開いた。
「これは?」
「今日は栗のケーキを用意したのよ。おばあ様でも食べやすいと思うわ。お茶と一緒にいただきましょう?」
「そうね……」
白磁器の皿に鎮座した黄金色のケーキをさしだせば、おばあ様は初めて見るであろう栗のケーキを不思議そうに見つめた後、銀色のフォークでカットし、ゆっくりと口の中に入れて味わった。
「このケーキは柔らかくて食べやすいのね……。それに、とっても美味しいわ」
「本当? よかったわ!」
私もフォークで切り分けて食べると、栗本来の甘みとクリームのまろやかさ、スポンジケーキの柔らかさと粉状アーモンドの芳ばしさが絶妙な相性で舌の上に美味しさが広がった。手探りで作ったにしては充分なレベルだろう。
自分自身でも大満足で完食すると、祖母はそんな私を微笑みながら見つめ、白磁器のティーカップをかたむけ、お茶を飲んだ。
「セリナ……。このケーキはあなたとルルとララで作ったのでしょう?」
「え、えっと」
「あの子たちだけで、こんなケーキを作れるはずが無いですからね」
「その……」
私は内心、焦った。この世界で貴族は家事の類をすべてメイドや召使いにやらせるのが常識なのだ。当然、まがいなりにも貴族令嬢である私がケーキを作るなど常識から外れた行為だろう。何と言い訳すべきか、私が頭を悩ませていると祖母はふんわりと笑った。
「隠さなくてもいいのよ。貴族の子女が料理をするなんて……。と咎める気もありません」
「え」
「むしろ、孫がこんなに美味しいケーキを食べさせてくれて私は嬉しいのよ。……長生きはするものね」
「おばあ様……」