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その後、双子のメイドは私に言っていた通り、シチューを作った。どうやら以前、風魔法を教えた時に私が説明した「料理を熱してから冷める時、食材に味が染み込む」というのを覚えて実践したらしく、今日のシチューは鶏肉、ニンジン、じゃがいもに味が染みていて、とても美味しかった。
翌日、いよいよスイーツ作りに取りかかる。と言っても、この世界の貴族令嬢は基本的に料理をしないのが常識なので、双子のメイドに対して調理場で指示を送ることにした。
「それじゃあ、まずは昨日から水につけていた栗の皮を包丁でむいてね」
「はい!」
「了解しました!」
「あ、水底に沈まないで何個か浮いてる栗は捨てて良いわ」
「捨てるんですか?」
「もったいなくないですか?」
双子が眉根を寄せるので、私は思わず苦笑する。
「浮いてる栗は中身が虫食いになってて、味も渋くて食べられないはずだから。ためしに半分に切ってみて」
「はい」
ルルがためしに水に浮いていた栗の一つを、真っ二つに切るとその中身は黒ずみ、虫に食われたであろう痕跡が見受けられた。
「あ、本当に虫食いだ!」
「中身が黒くなってます!」
「うん。やっぱり水に浮いてる栗は虫食いだったわね。そういう栗は、せっかく時間をかけて皮を剥いても結局、食べられないのよね。最初からよけて破棄しましょう」
「はい!」
「了解しました!」
私の指示通り、水に浮いていた数個の栗を取り除いたルルとララは、銅製ボールの水底に沈んでいた栗をザルに入れ水を切る。
双子がまな板の上に一晩、水につけこんだ栗を置き、包丁の柄をにぎって、刃元で栗の上から背にあたる平面な皮部分に刃を入れると、包丁は驚くほどスムーズに入り、ストンとまな板の上に栗の皮が切り落とされた。
「すごい! さっき、真っ二つにした時も思ったけど、すごく柔らかくなってます! 簡単に栗の皮が切れました!」
「あんなに固かった栗の皮が、こんなに包丁が入りやすくなるなんて!」
「うん。一晩、水につけて寝かせたから昨日とは、段違いに栗皮が剥きやすくなってるでしょう?」
「はい! すっごい剥きやすいです!」
「びっくりしました!」
「その調子で、栗の平面部分はザックリと皮を切りおとして、丸い部分はリンゴの皮を剥くみたいに切ってね。あ、昨日よりは柔らかくなってるとはいえ、ケガをしないように注意してね」
「はい!」