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「あれ?」
「あれって何ですか?」
私が何を作ろうとしているのか見当もつかない様子で、不思議そうに小首をかしげる双子のメイドに私は口角を上げる。
「うふふ……。明日、作りながら話すわ。今日はとりあえず下準備だけしておきましょう」
「下準備だけ?」
「今日は作らないんですか?」
すぐ調理を開始せず、明日にするということを疑問に感じている双子に私は説明する。
「いますぐ栗を調理しようと思ったら、固い栗皮を包丁でむくのが大変でしょう?」
「あ、確かに栗の皮を包丁でむくのは大変ですね」
「栗の皮は固いし、つるつる滑ってしまいますものね」
「うん。固い栗の皮を無理やり剥こうとすれば、包丁をすべらせて手を傷つけてしまう危険があるから、今日は栗をたっぷりの水でつけておいて。そうすれば明日、むきやすくなるわ」
「たっぷりの水ですね!」
「分かりました!」
ルルとララは茶色い栗を軽く水洗いした後、銅製のボールに入れて、そこに水をなみなみと注ぎ入れた。
「セリナお嬢様、アーモンドはどうしましょう?」
「アーモンドは密封する容器に入れておいて。明日、栗と一緒に使うわ」
「分かりました!」
双子は私の指示通りアーモンドをガラス容器に移し入れ、コルクでフタをした。
「明日、栗とアーモンドを使うのでしたら、今日は普通に料理を作ってよろしいのですか?」
「うん、お願い。今日は何を作るの?」
「今日はシチューを作ろうと思います。市場で牛乳とクリームを買ってきました」
「クリーム!? クリームがあるの?」
「ええ、水牛のクリームですけど。シチューに入れようと思って買ってきました」
私の反応に驚きながら、双子がバスケットの中からガラス容器に入った乳白色のクリームをウォールナット材製のテーブル上に置いた。私は早速それを手に取りスプーンで少し、すくって味をみた。
水牛の物と聞いて、かなり違うのかと思ったが舌の上で広がる、このコクと味わいはまぎれもなく、前世にもあったクリームと同等の物だと確信する。
「まさかクリームがあるなんて……。うん、間違いない。これはクリームだわ!」
「はい。クリームですが?」
「クリームは手に入らないと思ってたから、カスタードクリームにしようと思っていたけど、これなら……!」
「セリナお嬢様?」
ぶつぶつと呟く私を不思議そうに見る双子を傍目に、私の思考はあのスイーツを作ることに占められていた。