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それにしても今の所、双子が魔法を使うのは、必ず私が魔力補助してからだ。単独で発動させる練習も積ませなければいけないのだが、人間という物は最初の成功体験がないと頑張れないというし……。単独での魔法発動については、おいおい自力練習なりで何とかしてもらおうと思った。
そして、今日も魔法の練習が終わってから祖母と居室のソファに腰かけて、私は双子の様子を見守っていた。ルルとララはかいがいしく私と祖母にお茶を入れてくれた。
「二人ともごきげんね」
「はい! 今日はセリナお嬢様に、氷魔法を教えて頂けたので!」
「あら、氷魔法を使えるようになったの?」
「そうなんです!」
「それは良かったわねぇ……」
なごやかに祖母と会話する猫耳の双子メイドを見ながら、青磁器のティーカップに注がれたお茶を飲みつつ、私は思った。
魔法の練習中は単独で「氷魔法が使えない」と嘆きながら、かなり疲弊していたはずの双子だったが、今や疲労の色は全く見えず元気いっぱいといった様子で笑顔を振りまいている。
ルルとララに自覚はないようだが、やはり私が魔力譲渡することで双子の体力も回復しているようだ。そんなことを考えていたら祖母が私に微笑みかける。
「セリナ。氷魔法の次はどんな魔法を教えてあげるの?」
「火魔法と氷魔法の次は、風魔法を教えようと思います」
「風魔法?」
「ええ、二人の仕事にも役立つと思うし」
私の言葉にかたわらにいた双子が目を丸くして、きょとんとする。
「仕事に役立つ風魔法ですか?」
「どんなふうに風魔法が役立つのでしょうか。セリナお嬢様?」
興味津々といった様子で黒猫耳と白猫耳をピンと立てて、私に注目する双子にどう説明するか思案する。
「うーん。色々、使えると思うわよ。例えば料理とか」
「料理に風魔法が使えるのですか!?」
「いったい、どうやって料理に風魔法を使うんでしょう!?」
「え、そんな驚くほどのことじゃないと思うんだけど……。料理を風で冷やす時とか」
「料理を冷やす?」
「短時間で煮ものに、味を染み込ませようと思ったら過熱するだけじゃなくて一度、冷やすことも大事なのよ」
「そうなんですか?」
大きな瞳をさらに見開いておどろく双子に、私はうなづく。
「そうなのよ。食材を加熱すると肉の中にある肉汁だったり、野菜の水分が外に流れ出るのは分かるでしょう?」
「ああ、はい。確かに……」
「フライパンで加熱すると肉汁が出たり、野菜から水気が出たりします!」
「うん。加熱して一度、食材から水分が出てやわらかくなった後で料理が冷める間、今度は食材の中から失われた水分が再び食材の中に戻るの。だから冷えることで味が染み込むの」
「へぇ……」
「そうだったんですね……」
「うん。加熱した後、ある程度時間をおいていた料理に『味が染み込んでる』と感じるのはそういう原理からなのよ」
「たしかに……」
「思い当たります……」
一晩寝かせたスープや煮物には、よく味が染み込んでいるのを思い出したのだろう双子は、くちびるに指を当て過去の記憶を思い出しながら私の言葉に答えている様子だ。
「だから短時間で味を染み込ませた料理を作りたいと思ったら、料理に風魔法を組み込むのは合理的だと思うの」
「おお!」
「なるほど!」
私の説明に目をキラキラさせる双子を微笑ましく思っていると、それを聞いていた祖母もどうやら感心したようだった。
「セリナはよく知ってるわね。学園で習ったの?」
「へ? あ、ええ……。まぁ……」
まさか、前世の知識です。とは言えるわけもなく私は若干、顔をひきつらせながら祖母にあいまいな笑顔を浮かべた。