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妙に具体的な夢を見たことが引っかかりながらも、服を着替え朝食を食べるため、階段を下りてダイニングに入れば父母がお茶を飲んでいた。
「お母さま……。今度は、おばあ様の夢を見たんだけど」
「え?」
「おばあ様。夢の中で、真っ白い陶器製の入れ歯をしてたわ」
「陶器製の入れ歯? そんなの見たことないけど……。セリナはそんなに、おばあ様に会いたいの?」
「うん……」
「そうねぇ。そろそろ、顔を見せに行こうと思っていたし……。三人で行きましょうか?」
「いや。俺は今日、貿易商の所へ行く約束があるから」
「あら、そうなの?」
「領地視察の件でな」
「ああ、もうそんな時期なのねぇ……」
「おまえたちが顔を見せれば、父上や母上も喜ぶだろう。今日は二人で顔を出してやってくれ」
「じゃあ、お母様と一緒におばあ様に会いに行きましょうかセリナ?」
「うん!」
私としては立て続けに、具体的な夢を見たことが妙に気になっていた。母の提案にうなづき、祖母に会いにいくことになった。
祖父母が住む邸宅は古い家で、街の中心部からも大きく外れている。私の両親は同居を持ちかけているのだが、祖父母は住み慣れた家を離れたくないと、身の回りのことはメイドに任せながら古い邸宅に住み続けているのだ。
「お義母様、お久しぶりです」
「まぁ! よく来てくれたわね! セリナも! ちょっと見ない内にまた大きくなったわね!」
私と母の来訪を心から喜んでくれている祖母は、驚いたことに夢で見た通り陶器製の、真っ白な入れ歯を装着していた。
「おばあ様……。その歯は?」
「ああ、やっぱり分かる? 実は愛用してた入れ歯を、どこかになくしてしまってね」
「入れ歯を……」
「今つけてるのは昔作った陶器製の入れ歯なんだけど、重いから困ってるのよ。いったい、どこにいったのかしら? この家の中にあるのは確かなんだけど」
「おばあ様。私、もしかしたら入れ歯の場所、わかるかも」
「え?」
「ちょっと待ってて、おばあ様!」
「セリナ? どこに行くの?」
「夢の通りなら、ベッドの下にあるはず」
そう思いながら祖父母の寝室に入って、ベッドの下をのぞき込めば思った通り。ベッドの柱の影に紛失したという、おばあ様の入れ歯が転がっていた。
「おばあ様! 入れ歯、見つかったわ! これでしょう!」