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思い返せば幼少期、自宅にある書庫の魔導書を読んで独学で中級魔法までマスターした私だったが、彼女たちは今まで専門的な魔導書を読む機会も無かったのだろう。
さっそく翌日、双子に魔法を教えるべく学園時代に使っていた初心者向けの本を渡し、魔法の使い方について説明する。
「精神を集中させて使いたい魔法をイメージしながら、手や指先に魔力を集めるの」
「手や指先に……」
「う、う~ん……」
双子は見よう見マネで必死に手に魔力を集めようとするが、魔力が集まる気配が全く感じられない。
「こう、手に魔力が集まる感覚ない?」
「分からないです……」
「やっぱり魔法、使えないんでしょうか……」
魔法が使えそうな手ごたえが全く感じられず、猫耳をしょぼんとたれさせて落ち込む双子の様子を見ていてどうにかならない物かと思うが幼少期、魔導書を読みながら特に苦もなく魔法を覚えた身としては、このような時にどうすれば良いのか、さっぱり見当がつかない。
「学園の先生が、確か『ほとんどの者は簡単な魔法が使える』みたいなことを話していたから、ルルとララも大丈夫だと思うんだけど……」
「それは貴族の子息や令嬢が通う、王立学園だからかもしれません」
「え?」
「平民より、貴族の方が魔法が使える率が高いんです」
「そうなの?」
「はい。貴族の方が魔力も高いと言われていますし……」
「そんな……」
伯爵令嬢フローラや侯爵家子息のクラレンス様が魔力の低い者を下に見ていた一因はこれかと思いながら思わず、スカートのすそをにぎりしめる。
「いいえ。コツさえつかめば、ルルとララもきっと魔法が使えるはずよ。そうだ、二人とも手を出して」
「手ですか?」
「これでよろしいですか。セリナお嬢様?」
「ええ。そのまま、じっとしていてね」
とにかく、きっかけだ。自分で魔力を集めるイメージがわかないというなら、他者が補助的にきっかけを与えれば良いんじゃないかと私は考えたのだ。私は二人が差し出した手のひらの上から、手をかざして魔力を送り込む。
「これは……!」
「温かい……!」
「今、二人に送り込んでるのが魔力よ。そのまま精神を集中させて魔法を使ってみて」
双子は初めて明確に感じる魔力に戸惑いながらも、精神を集中した。すると指先から小さな赤い炎が現れゆらめいた。
「できた……」
「信じられない……」
「やったわね! 平民でも関係ないわ! 二人とも、ちゃんと魔法が使えるのよ!」
「うっ。うれしいですっ!」
「ぐすっ。ありがとうございます。セリナお嬢様っ……!」
二人ともよほど嬉しかったのだろう。大きな瞳からぽろぽろと涙をこぼして、初めて魔法が使えたことを泣きながら喜んだ。