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その晩はひとまず服にハサミを入れてぬぎ、寝る時は下半身にペチコートを身に着け上半身はバスタオルを巻いてむき出しになっている肩や首を冷やさないようにベッドに入ってからは首元に毛織物をかけて眠った。
寝てる間に冷えるのは首や肩の部位。逆に言えば首や肩さえしっかり温かくしておけば身体は毛布に包まれているから普通の夜着を身に着けていなくても大丈夫だ。
「それにしても、右手が使えないとやっぱり不便ね。日常動作も制限されるし、服にも困るし……」
ゲンナリしながらベッドに入って左手で身体にやわらかな毛布をかける。
「早く、取れればいいんだけど……。明日はパティスリーが休みだったのが不幸中のさいわいね」
右手に銅製ボウルがぴったりとはりついているのを感じながら、私はマブタを閉じ夢も見ない眠りについた。そして翌朝、前日の夕食時に話していた通り双子には早朝から例の店に行ってもらった。
「ヒマなら良いんだけど。もし、忙しくて来てもらえなかったら困るわねぇ……」
上半身はタオルを巻きつけて肩からショールを羽織って、下半身はペチコートという状態では人前に出られない。そう思いながら室内をウロウロしていると扉が開く音と複数の足音聞こえた。
「セリナ様~。事情を話してレイチェルさんに来て頂きました!」
「来てくれてよかったわ! 急に呼び立てて、ごめんなさいね!」
「いえ。仕事の依頼ということで、こちらとしてはありがたい限りなんですが……。セリナさん本当に右手がふさがってしまってるんですね」
呆然とした様子で銅製ボウルがくっついた私の右手に視線がクギ付けになっているのは、ふわふわの髪が印象的なプロヴァト仕立屋のお針子レイチェルだ。
以前、猫耳双子のメイド服作りでもお世話になったレイチェルなら、何とかしてくれるんじゃないかと助けを求めたのだ。
「ええ、そうなの。こんな状態で普通の服を着ることができないから、レイチェルに新しい服を仕立ててほしいの……。お願いできるかしら?」
「それはもちろん。布や道具は店から持ってきましたから早速、取りかかりましょう!」
「ありがとう!」
双子が運ぶのを手伝った布や裁縫道具箱をテーブルの上に広げ早速、レイチェルは服作りに取りかかった。
「このまま、普通の服を仕立ててセリナさんに着せることも可能ですが、それだとぬぐ時に厄介ですからまず部屋着として肩だしのワンピースを仕立てましょう」
「おお! さすが! でも、肩だしワンピースって大丈夫かしら? 実はこの後、知り合いが尋ねて来るんだけど……」
「男性ですか?」
「うん……」
「あまり肌を露出してる姿で、人前に出たくはないですよね?」
「できれば……」
あまり服装のえり好みができる状況ではないが、こちらの意向を伝えるとレイチェルは右手にボウルがついた私の姿を見ながら少し考え込んで頷いた。
「じゃあ肩だしワンピースに肩ひもをつけて結ぶスタイルにしましょう。そしてソデも後から腕につけましよう。ワンピースもソデも、ひもで脱着できる仕様にして肩からショールを羽織れば傍目には普通の服に見えます」
「さすが! じゃあ、それでお願い!」
「おまかせ下さい!」




