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「そう。じゃあ、レオン陛下はもうご存じなのね」
「はい。ハリエッタ姫の婚約者捜索に関しても協力すると話されてましたし、もし行方不明の婚約者が王都にいるなら案外、早く見つかるやもしれませんね」
黒髪の女官長ミランダさんの言葉を聞いたローザは安堵した様子で微笑んだ。
「そうなのね……。無事に見つかるといいわよね。セリナ」
「え? うん」
「何か気になることでもあるの?」
「気になるって言うか……。ローザが『聖女じゃなくて良かった』ってハリエッタ姫が言ってたのって、不治の病になった公爵家当主の病気が治癒しない方が良いって考えてるからでしょう?」
「そういえば……」
「現公爵がこのまま病で死亡すればハリエッタ姫は好きになった相手と結婚できるけど、もしローザが聖女で不治の病を治癒させることができるならハリエッタ姫にとっては都合が悪いと考えていたんだわ」
「そうね」
「公爵家の現当主はハリエッタ姫の姉が伴侶で、義理の兄に当たる方なのに……。正直、あんまり関わりたくないタイプだわ……。まぁ行方不明の婚約者が見つかり次第、蒼狼王国に帰るだろうし。私とは住む世界が違う方だから、これ以上は関わり合いになることもないと思うけど」
王宮お抱えの一流料理人が作った物しか食べないという発言といい、どうにも好きになれそうもないタイプだ。むしろ、関わり合いにならなくて万々歳なくらいだと思いながら告げればローザは気遣わし気な表情を浮かべた。
「ハリエッタ姫の滞在中は、セリナにケーキを持ってきてもらうの控えましょうか?」
「そこまで気を使ってくれなくても良いけど……。ハリエッタ姫がしばらく、この王宮に滞在するならローザは顔をあわせる機会もあるだろうから気をつけてね?」
「ええ……」
当惑顔で頷くローザを見た後、ハリエッタ姫が去った方向を見て深く息を吐いた。伯爵令嬢フローラが去ったと思ったら、また妙なのがやってきたものだ。しかも他国の姫君とは身分が高い分、フローラより厄介だろう。
ハリエッタ姫の場合、自分の幸福の追求が最優先という性格なのだろうけど。身内の死すら喜びそうな雰囲気の姫君とは到底、価値観を共有することはできそうにないと感じる。
行方不明の婚約者にベタ惚れのようだから、ハリエッタ姫が他に目が行くとは考えにくいが。王宮に滞在している内に万が一、レオン国王に心を奪われるような事態にでもなれば厄介なことになるのは間違いない。
早めに公爵家の三男という婚約者が見つかってハリエッタ姫が金獅子国を去ってくれることを祈るばかりだ。




