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「あ、そうですか……」
今の私は黒髪の女官長ミランダさんと侍女の手によって、ドレス姿に着替えさせられているので一見すれば一般的な貴族令嬢にしか見えないだろう。
こう見えても城下に店を構えているパティスリーの店主なので一応、まがいなりにもケーキ職人として独立してやっている訳なのだが、王宮お抱えの一流料理人が作った物しか食べたことがないと公言する姫君に対して、私の正式な肩書を伝えたところでやはりケーキを食べてもらえるとは思えないし、姫君の横柄というか慇懃無礼な態度に触れて特段、自分が作ったケーキを食べてほしいとも思わなかったので閉口した。
「それにしても、金獅子国の貴族令嬢は手ずからケーキを作ったりするのね。そのような料理の類は料理人や下働きのメイドがする物だと思っていたから私、ビックリしてしまったわ!」
「いえ、金獅子国の貴族令嬢も普通はしないと思いますので……」
念の為、誤解を与えないように訂正すると姫君は紫がかった銀髪の縦ロールを揺らして笑みを浮かべた。
「やっぱり!? そうよね? 私が世間知らずなのかと思ったけど高貴な貴族令嬢は普通、料理なんてしないわよね……。ところで、プラチナブロンドのあなた」
「私ですか?」
突然、話を振られたローザが目を丸くして、当惑しながら小首をかしげる。銀髪の姫君は鷹揚に頷いた。
「ええ、あなたよ。金獅子国の王、レオン陛下に寵愛されている寵姫はプラチナブロンドに水宝玉色の瞳だと聞いたわ。あなたが寵姫ローザじゃなくって?」
「確かに、私の身分は寵姫で名前はローザですが……」
「やっぱり! 寵姫ローザに会えて良かったわ! あなたに聞きたいことがあったの!」
「なんでしょうか?」
戸惑いながらローザが尋ねれば銀髪の姫君は一歩、前に出た。
「金獅子国のレオン陛下を不治の病から救った、寵姫ローザは『聖女』で『聖なる癒しの魔法』で病を癒したと聞いたわ。事実なの?」
「いえ、そのような噂が他国で流れているらしいとは聞いておりますが、事実ではありません……。そもそも私は魔力が低く、回復魔法すら使えないのです……。魔法で陛下をお救いできるはずがありません」
「そうなの?」
「はい。申し訳ないですが……」
不治の病を治したというウワサが立っているローザ本人に「聖女なのか?」と聞くということは、銀髪の姫君に病を治して欲しい相手がいると思ったのだろう。ローザが申し訳なさそうに視線を落とす。その姿を見た姫君は銀髪の縦ロールを揺らして嬉しそうに微笑んだ。
「良かったわ!」
「え?」




