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赤髪の伯爵令嬢フローラは高笑いしながら、クラレンス様と共に学園の中庭を後にする。私は愕然としながら遠ざかっていく二人の後姿を見送り、その場に立ちつくす。そんな私の顔をローザがいたわしそうに見つめていた。
「セリナ、その……。突然、婚約破棄だなんてショックでしょうけど……」
「うん、私の知らない間に婚約破棄されてたのと、フローラとクラレンス様が婚約していたことには驚いたけど」
よくよく考えてみれば先日、私が魔力の実の苗を育てている時、おばあ様は何か言いにくいことを切り出そうとしていた。
てっきり息子夫婦やおじい様を亡くして、心細くなっているんだとばかり思いこんでいたけど、あれはきっとオブシディア侯爵家から婚約破棄が通達された件を私に言い出しにくかったんだろう。
私がもっと、きちんとおばあ様から話を聞いておけば、事態を把握できていたのにと思わずにはいられない。おばあ様の方も、立て続けに両親や祖父を亡くした孫娘に婚約破棄の件まで切り出すのは気が引けてしまったんだろう。
「あんまり気を落とさないでね。セリナなら、きっといい人が見つかるわ!」
「ありがとうローザ。でも、何と言うか……。婚約破棄に関してはちょっと安心した部分もあるから」
「そうなの?」
「うん。何しろ、幼少期に親の口約束で決められて、顔も知らない相手だった訳だし……」
正直、フローラがワザと私をあおるような言動を取っていたことに関してはカチンと来たが、婚約者だったとはいえクラレンス様に対して恋愛感情は無い。だから婚約破棄されたということに関して、立ち直れないほどダメージを受けたというほどでも無いのだ。
「そっか。セリナが、あまり大きなショックを受けてないみたいで良かった。それに、不謹慎かもしれないけど私、ホッとしてるの」
「え? なんで」
「もしセリナが、あんなに高い魔力や身分にこだわる侯爵家の方と結婚していたら、きっと私とも疎遠になっていたと思うの。だから……」
「ローザ……」
プラチナブロンドの髪を風にゆらしながらローザは優しく微笑んだ。
その後、私は帰宅した。家では、おばあ様が居室でソファに腰かけ、白いハンカチに刺繍をしながら私の帰りを待っていた。
「ただいま帰りました」
「お帰りセリナ」
「おばあ様……。さきほど学園でオブシディア侯爵家のクラレンス様とお会いしました」
「オブシディア侯爵家の……」
祖母は刺繍の手を止めて、私の言葉に息をのみ軽く目を見開く。




