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「その前に、これはお預かりいたします」


「あっ! それは!」


 無表情の女官長は、私が手の内に隠し持っていたガラスの小瓶を素早く奪い取った。まさかの展開に唖然としたが、この事態を全く呑み込めていないリオネーラ王太后は眉をしかめた。


「何ですか、その小瓶は?」


「リオネーラ王太后様。これは魔力増強剤だと思われます」


「魔力増強剤? それはまことですか!?」


「はい。これと全く同じ物をつい最近、間近で見たことがありますので間違いないかと……」


 黒髪の女官長は透明ガラス小瓶の中で揺れる紫色の液体を見せつけながら平然と答えるが、周囲で見ていた重臣たちは皆一様に驚いて騒然としている。


「バカな!」


「国王陛下と王太后様の御前で魔力増強剤を用いるなど!」


「魔力ドーピングじゃないか!」


「まさか、伯爵令嬢フローラは魔力ドーピングで周囲を謀っていたと言うのか!?」


 魔力増強剤を使用した上で魔法を使用すれば本来の魔力よりも高い魔力だと見せかけることが出来る。しかし、それは周囲をあざむく魔力ドーピングと呼ばれる行為。


 このような国王陛下や王太后様の御前で魔力ドーピングによる不正行為を行ったと認めれば、これまで築き上げてきた物が一瞬にして瓦解してしまう。私は慌てて首を横に振った。


「ち、違います! これは。これは魔力回復薬ですわ! 魔力増強剤ではございません! 今朝、実家であるフルオライト伯爵家で魔法の鍛錬をして魔力を消耗してしまっていたので、皆様の前で披露する前に魔力を回復させたかっただけです!」


「フルオライト伯爵令嬢の言い分は分かった」


「レオン陛下!」


 国王陛下から助け船が入る形となり私は歓喜しながらレオン陛下を見つめたが玉座に肩ひじをつきながら、こちらを一瞥した金髪の国王は傍で控えている侍従に視線を向けた。


「では、フルオライト伯爵令嬢が用意した物では無く、こちらで用意した魔力回復薬を使ってもらおう。トーランス」


「はっ。回復薬でしたら所持しております。フルオライト伯爵令嬢、こちらをお使い下さい」


 国王陛下の横に控えていた侍従が懐から青い液体が入っているガラスの小瓶を取り出した。私は内心の動揺が表に出ないように取り繕いながらそれを受け取る。そしてレオン陛下やリオネーラ王太后が見つめる中、小刻みに震える手でそれを飲み干した。


「さぁ、フルオライト伯爵令嬢。真の魔力を見せてもらおうか?」

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