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「フローラを王妃に推してくれた重臣には、おまえが王妃になった暁には何かと優遇すると約束している。寵姫ローザを王妃にした所で重臣たちには何の旨味も無いからな」
「自分の利益を考えれば寵姫を王妃にするよりもフローラを支持した方が良いのは明白なのだし、客観的に見ても寵姫ローザを唯一の妃にするなんて合理性に欠けるもの」
「そうね……。重臣たちを抱き込めたならこちらの物よね」
「常識的に考えて、あんな魔力の低い下級貴族の娘を王妃に推す者はいないさ。心配ない」
「王宮では連日、お妃教育で疲れてるでしょう? ここに居る間はゆっくりなさい」
「ええ。そうするわ」
こうして父母と談笑しながら久しぶりに実家でリラックスして過ごした。母の言う通り、後宮では連日のお妃教育でろくに休む暇もなく気が抜けない日々だった。
母のお見舞いと称して実家に帰宅したのは、あくまで買い物のついでだったけれど私にとって久しぶりにリフレッシュ出来る休暇となった。
そしてのんびりと実家で過ごした数日間はあっと言う間に過ぎ去り、私は二人の侍女と共に再び馬車に乗ってフルオライト伯爵家の邸宅を後にし、王宮へと入りながら、ふと気づく。
「そうだ。アレを一本ちょうだい。王宮にいる間は、いつ何があるか分からないから肌身離さず持っていないと」
「はい。これですねフローラ様」
私の意図を察した侍女が小箱を開ければ、中には紫色の液体が入ったガラス製の小瓶が複数詰まっている。その中から一本を取り出し、ドレスのポケットに忍ばせる。
いざという時には、これが役立つだろう。そう思いながら口角を上げていると大きな第一の門を抜け、王宮の入り口で馬車を降りれば黒髪の女官長ミランダが出迎えに来ていた。
「出迎えに来てくれたのね。女官長」
「はい。フローラ様がお戻りになられたら国王陛下が、すぐにお会いしたいとの事ですのでお迎えに上がりました」
「レオン陛下が?」
「ええ。こちらでございます」
目を細めてにこやかに頷いた女官長に先導され、白大理石の円柱が立つ長い回廊を歩きながら珍しいこともある物だと内心驚く。あの国王は私に微塵も興味を示さずロクに会おうとすらして来なかった。
もしや、レオン国王が心変わりして私を正妃にすることに前向きになったというのだろうかと考えていると黒髪の女官長が一際、大きな扉の前で立ち止まった。
「え、ここって?」
「はい。謁見の間でございます」
「謁見の間? レオン陛下と私が二人きりで会うのではないの?」
「いいえ。国王陛下とリオネーラ王太后様、そして重臣の皆様が謁見の間にお集まりですので、お呼びしたのです」
「重臣たちも? 今日は何かあったかしら?」
「行けば分かります。さ、フローラ様。お入りください」




