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眉根を寄せてまぶたを閉じ、祈るような姿で悲壮な表情をした伯爵令嬢フローラは次の瞬間、目を見開くと一転して私に勝気な笑みを浮かべる。
「だから私、事実をありのままオブシディア侯爵家の皆様にお話したのよ。セレニテス子爵令嬢セリナの魔力が高いなんて、虚偽だって」
「そういう訳だ。……俺の父は『非常に魔力が高い、子爵家の娘』と婚約させたつもりが、事実と反するならば、詐欺にあったような物だ。オブシディア侯爵家が婚約破棄を通達したのは当然だろう?」
「そんな。詐欺だなんて……」
私の魔力が高いのは事実だし、両親が私とオブシディア侯爵家、子息クラレンス様との婚約を決めたのは良かれと思って決めたことだ。
それを言うにことかいて『詐欺』だなんて、あんまりだ。私が顔をしかめるとクラレンス様は冷ややかな視線を向けた。
「もっと言えば……。事業資金を返済する関係で、セレニテス子爵の領地も自宅も手放すだろう?」
「ええ。親が借りしたお金は、きちんと返済します」
「つまり。領地を手放すことで君の家は没落貴族になるという訳だ」
「それは……」
「率直に言わせてもらうが……。侯爵家の次期当主である、この俺が平凡な魔力しか持たない没落貴族と結婚などするわけが無いだろう?」
冷淡に告げる侯爵家子息の言葉に、赤髪の伯爵令嬢は大きくうなづいた。
「クラレンス様のおっしゃる通りですわ!」
「フローラ……」
「平凡な魔力しか持たない子爵令嬢というだけでも、侯爵家子息であるクラレンス様とは不釣り合いだったのに……。領地を持たない没落貴族の娘が婚約者だなんて、厚かましいにもほどがあるわ!」
「ぐっ」
私が言葉に詰まると伯爵令嬢フローラは勝ち誇った笑みを浮かべた。
「まぁ、一時は婚約詐欺にあったような状態でしたけど。あなたの『元婚約者』であるクラレンス様のことは、何も心配いらないですわ。このたび、私と正式に婚約することが決まりましたもの」
「そうだ、婚約って?」
「クラレンス様の婚約破棄が決定したあと、私の魔力が高いことを知ったクラレンス様のお父君、オブシディア侯爵が『フルオライト伯爵家のフローラなら、身分も魔力も申し分がないからぜひ』と私に声をかけて下さったのよ」
「そんな……」
「そういう訳だ。君とは元婚約者と言う間柄ではあるが、すでに君と俺では住む世界が違う。婚約破棄を受け入れて、今後は身の振り方でも考えてくれ。さぁ、行こうフローラ」
「はい。クラレンス様……。それでは皆様、ごきげんよう。没落貴族となる方とは、もう会うこともないと思いますけど。おほほ」