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 軽やかに走る馬車に揺られながら自然と口元に笑みが浮かぶ。上機嫌な私の様子に二人の侍女も微笑む。


「フローラ様、目的の品が入手できて良かったですね」


「ええ、あの魔道具屋の店主は目つきは悪いし態度は最悪だけど、取りあつかっている品は確かですもの。欲しかった品の在庫が入っているタイミングで良かったわ」


「フルオライト伯爵家に帰る前に立ち寄ったかいがありましたね。フローラ様」


「ふふ。まったくだわ」


 そんなことを話している内に馬車はフルオライト伯爵家の敷地内に入り、石造りの邸宅が見えてきた。玄関前に停まった馬車から降りれば、実家の召使いたちが出迎え久しぶりに帰宅した私にうやうやしく頭を垂れる。


「お帰りなさいませ。フローラお嬢様」


「ただいま。お父様は?」


「居室におられます」


「そう」


 屋敷に入った私はハイヒールの音を響かせながら家令の返答を聞き、居室へと向かった。軽く居室のドアをノックしてから開ければ室内にいた父が私の姿を見て顔をほころばせた。


「おお、フローラ」


「ただいま帰りました。お父様」


「うむ。無事で何よりだ。メイドの件はおまえが言っていた通り、背格好が似た女を何人か雇ってうちのメイドの服を着せ、おまえが言っていた通りの噂を城下で流させておいたぞ」


「ありがとうございます、お父様。首尾は上々ですわね。王宮にまで噂が届いて実に愉快でしたわ」


「可愛い娘のためだ。この程度いくらでも協力するさ」


 国王陛下の本来の婚約者である伯爵令嬢フローラは蔑ろにされている。寵妃ローザは図々しくも王妃の部屋に居座る悪女である。そういう噂を流すように実家のフルオライト伯爵家に頼んだのは他でもない私。


 実際、寵妃であるローザは本来なら後宮に住まわなくてはならないのに、分不相応にも王妃の部屋に長期滞在しているのだし、国王陛下の婚約者である私が蔑ろにされているのも純然たる事実。


 根拠のない捏造ならば問題もあるだろうけど、事実に基づく話が漏れ伝わっているのなら仕方ない。もっとも噂を広めるように指示したのは私だけれど。


 実家への使いと称して二人いる侍女の一人をフルオライト伯爵家に送り、父に私の意図を伝えれば王宮や後宮の者に気付かれる事なく実家の協力をあおげる。


「それにしても噂を広めるために新規で雇っていた者たちは解雇したと聞きましたが、大丈夫ですの? フルオライト伯爵家の指示で噂を広めていたと口を滑らせたら面倒ですわ」


「その件は心配ない。解雇した者たちは後日、自殺や事故に見せかけて全員の口を封じておいたからな」


「まぁ、さすがお父様ですわね」 

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