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「人間は基本的に一夫一妻制だけど、獣人はそうじゃないわ。あなたのご両親は一夫一妻制だった?」
「当然ですよ!」
私が食い気味に答えると黒髪の女官長は表情を変えずに頷いた。
「あなたが一夫一妻は当たり前だと思っているのと同じくらい、獣人は一夫多妻や同時に複数の異性と関係を持つのが当然だと考えてる。だから国王陛下が突然、後宮のハーレムを解散させると言っても納得してない重臣も多いのよ」
「獣人……。レオン陛下も獣人なのに……」
「レオン陛下のような考えは獣人の中でも少数派の意見よ。もちろん獣人の中には一夫一妻の考えを持つ種族もあるけど、獅子王族の中でレオン陛下の考えは異質と言っていい位……。だからリオネーラ王太后様もレオン陛下の考えを受け入れず、伯爵令嬢フローラを王妃にしてローザは寵妃のままで良いという考えなのよね」
「そんな……。レオン陛下はローザを王妃にと望んでいるのに、なんでリオネーラ王太后は伯爵令嬢フローラを王妃にしたがるんですか? リオネーラ王太后だって女性なら一夫多妻より、一夫一妻の方が良いって思うんじゃ? それともやっぱり魔力の高さを重視しているからですか?」
「リオネーラ王太后様はもともと獅子王族だから一夫多妻制が当然だと思っています。それに王太后様が心配しているのは産まれてくる御子のことよ」
「やっぱり子供のことですか」
「ええ。魔力の低いローザが王妃になって、王妃となったローザ以外とレオン陛下が子供を作らないとなれば生まれて来る御子はどうしても魔力が低くなる可能性が高くなる。でも伯爵令嬢フローラを正妃にしてローザを寵妃にしておけば、少なくとも伯爵令嬢フローラとの子供も望める」
「酷い……。レオン陛下はローザのことを想っているのに」
麻痺症状の進行で命が危うかった時、寝台に伏せながらローザを王妃にしたかったと言ったレオン陛下の姿を思い出し私はくちびるをかみしめた。
「あなただって仮にも貴族令嬢の子女として生まれて教育を受けて来たのなら、王侯貴族として生まれたからには恋愛感情ではなく政略結婚が優先されるのは理解できるでしょう?」
「政略結婚は分かりますけど、よりによって伯爵令嬢フローラが正妃で寵妃がローザなんて……」
やはり、そこがどうしても引っかかってしまう。それと同時にローザが私を正妃にしたいという趣旨の発言をしていた意味も分かった。このままだと本当に伯爵令嬢フローラが正妃になってしまいかねないからだ。




