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突然の提案に、私は口を閉じるのも忘れ呆然とした。
「なに言ってるのローザ!? 私が王妃になんて、なれる訳ないでしょう?」
「そうかしら……。少なくとも魔力の問題はクリアしてるわ」
「魔力の問題って、そんなの」
「リオネーラ王太后様は魔力の低い者が正妃になる事に、とても難色を示しているの」
「たしかに王太后様って、謁見の間でも魔力重視な感じはしたけど……」
謁見の間ではレオン陛下が麻痺症状から回復する際、私が治癒魔法を使ったと知るやいなやリオネーラ王太后は私を後宮に入れて寵姫にすることを考えたらしいので、かなり魔力の高さに重きを置いている人なのだというのは分かった。
「さいわい、リオネーラ王太后様は身分に関して、それほど重要視されていないのよ」
「だからって」
「セリナなら元々、セレニテス子爵家の令嬢だった訳だし、私より身分は上だわ」
「そんな……。今さら身分なんて」
すでに子爵家の領地を失って城下でパティスリーを経営している身なのだから、爵位の事などすでに過去の話だ。私が苦笑いしているとローザは真剣な目で私を見つめた。
「それにレオン陛下が麻痺症状で臥せっていた時、セリナが一番最初に回復魔法をかけた際けっこうな時間、魔法をかけ続けていたでしょう? あれは魔力量が大きい者じゃないと出来ないわ」
「そ、そうだったかしら?」
「ええ。そうよ」
「えっと……。普通じゃない?」
「王宮でお抱えの治癒術師ですら、あっという間に魔力が尽きて複数の術師が倒れるのを何度も見たわ。でも、セリナは倒れなかった」
「それは……」
あの時は必死だったし、他の術者と魔法をかける時間について比べられると思っていなかったから、そこまで考えが及ばなかった。どう返答すべきか私が言葉に詰まっているとローザは確信を持った顔で冷静に私を見すえる。
「思えば王立学園時代に魔法の授業の時って、セリナは常に周囲の様子をうかがった後に魔法を発動していたけど、あれって周囲の様子に合わせて平均的な魔法を発動していたんでしょう? そう考えたらセリナが学園時代に回復魔法を使える事を口止めした事も説明がつくと思ったの」
今まで何とか上手く隠し通せていると思っていたけど、ついに気付かれてしまった。私が肩を落とすとローザは微笑した。
「セリナが魔力のことを周囲に話したくないなら、不用意に話したりはしないわ」
「ローザ……」
「でもね。セリナがそんなに高い魔力を持っているならって考えてしまうの……。私は正妃になりたいわけじゃない。もともと身分も魔力も低いし……。それにもし、私が正妃になったとして生まれて来る御子の魔力が私同様に低かったらと思うと」




