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「クソッ! あいつら。まだあんな減らず口を叩いて……! やっぱり氷漬けにして、もう口をきけなくしてやればよかった!」
逃げ去る少年たちを忌々しそうにねめつける金髪の少年の肩に、私はポンと手を置いた。
「ケヴィン君。あの子たちは引っ込みがつかなくて、あんな言い方してるけど……。さっきのでじゅうぶん警告になったと思うわよ」
「そうかな……」
「ええ。それにこんな真昼間から人通りの多い公道で貴族の子息を複数、氷漬けにして殺害なんてことになれば実行したのがローザの弟だとすぐ城下に知れ渡る。そうなれば王宮にいるローザの立場も悪くなってしまうわ。心無いことを言われて辛いでしょうけど、お姉さんの為にも不用意な行動はつつしまないと」
私が偶然、通りかかったように他にも複数の通行人が行きかって、人の目があるこんな場所で明るい内から王立学園に通う生徒同士で殺人が起これば、犯行後にすぐ立ち去ったとしても複数の目撃証言と動機から犯人がケヴィン君だというのは容易に分かってしまうだろう。
上級貴族の子息を複数人、殺害した犯人が国王陛下の寵愛を一身に受けているローザの弟なんてことになれば、とんでもないスキャンダルだろう。
そんなことになれば何よりローザが深く悲しむし、ローザを正妃にと望んでいるレオン陛下も自身の主張を貫き通すのが難しくなってしまうだろう。ケヴィン君には短絡的な行動に走らないようにガマンしてもらわないといけない。
「確かにセリナさんの言う通りだ。ついカッとなってしまって……。反省しないといけないな」
「分かってくれたのね。ケヴィン君! 良かったわ」
私の言葉を聞いて反省し地面に視線を向ける金髪の少年にホッと胸をなで下ろしていると、顔を上げたケヴィン君は迷いのない瞳で前を見つめた。
「うん。やる時はこんな人通りの多い公道じゃなくて人目に付かない場所で、証拠が一切残らないようにしないといけなかった……」
「違うっ! そうじゃないわケヴィン君!」
「次からは入念に計画を立てた上、完璧に殺るように気をつけるよ」
「ちょっと目が怖いわよ!? そのやる気は全力で出したらヤバイ感じするから落ち着いて!?」
蒼玉色の瞳に昏い闇をたたえた金髪の少年に、ただならぬ雰囲気を感じた私は必死に彼の怒りをしずめようとこころみた。すると金髪碧眼の少年はにこやかな笑みを浮かべる。
「いやだなぁ。僕は落ち着いてるよ……。殺る時は冷静沈着。これを基本理念として行動しないとね。ふふふ」
「笑ってるのに、ケヴィン君の目が笑ってない!」




