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卒業生たちの前で長い式辞の言葉を述べる白ヒゲの学園長や、卒業生を代表して答辞をする赤髪の伯爵令嬢フローラを遠目に見ながら、私は王立学園の卒業式を終えた。
教師やクラスメイト達と別れを惜しむ。取り巻きに囲まれているダーク王子は卒業に関して、特に思う所は無いようで不遜な態度に見えるが、もともと目つきが悪いせいもあるだろう。
先日、少しダーク王子と話した時、彼が意外と父親思いであることを知った。卒業後、彼が不幸になることがなければ良いのだが。ローザもクラスメイトとの別れを惜しんで目元が赤い。
「もう卒業なのね……。セリナ」
「うん。なんだか寂しいわよね」
卒業式が終わって、長い渡り廊下を歩き場所を中庭に移す。シンプルながら美しいデザインの王立学園と中庭に植えられている、よく手入れが行き届いた芝生の緑色とのコントラストが美しい。
この見慣れた風景も今日で見納めである。そう思うと、妙に物悲しいような気分になって、この光景をまぶたに焼き付けておこうと周囲を見ていると、横にいたローザが私の顔をのぞき込んできた。
「ねぇ、セリナ……。卒業しても私たち、友達よね?」
「当たり前じゃない! 学園を卒業しても私たちは友達よ! もし、ローザに何か困ったことがあったら必ず力になるわ!」
「ありがとう。私だって学園を卒業してもセリナのことは、ずっと友達。ううん、親友だと思ってる」
「ローザ……」
「私もセリナが困ったことがあったら、必ず力になるわ……」
アクアマリン色の瞳にうっすらと涙を浮かべるローザを見ていると、何とも言いがたい気持ちになる。海難事故で同じ日に父親を亡くしてしまった者同士であり、彼女とは不思議な縁のような物を感じる。
王立学園での日々は過ぎてみれば、あっという間だった。王子と同じクラスだったり、一時は勝気な伯爵令嬢フローラに睨まれたりして、どうなることかと思ったが、私は無事に自分の魔力の高さを隠しおおせた。
この調子で今後も、普通に生きていこうと思っていたその時、赤髪の伯爵令嬢フローラが視界に入った。彼女と一瞬、視線が絡むがフローラは私の後方に注意をひかれたらしく、私から視線を外し嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。
「クラレンス様!」
「えっ」
おどろく私をよそに、伯爵令嬢フローラは小走りで濃紺の貴族服を身にまとった、眉目秀麗な青年の胸に飛び込んだ。