375
外食というのは提供される飲食物の原価以外に、場所代や従業員の人件費も考慮して値段設定がされる。さいわい、このオープンカフェは国王陛下から直々に営業許可が頂けたので、ありがたいことにテーブルやイスを設置している噴水広場の場所代に関してはタダである。
だからと言ってここでオープンカフェを激安で経営しては、いつまでたっても相応の収入が見込めない。原価の高いケーキを安く提供している関係で売り上げ的には微妙な、このパティスリーをオープンカフェ開始でしっかりと軌道に乗せなければいけない。
「ふむ……。ここはやっぱりアレよね」
「アレ?」
「値段を安くするんですか?」
双子は猫耳をピンと立てて小首をかしげている。
「いいえ……。値段の高いケーキを作るわ!」
「は?」
「何故!?」
ルルとララは驚きのあまり目をまん丸くしているが、ここで値段を下げては元のもくあみだ! 値段は絶対に下げない。むしろ上げる!
「そうと決まれば早速、新しいケーキを作るわ!」
「セリナ様、本当に高いケーキを作っちゃうんですか!?」
「値段の高いケーキなんて売れ残るんじゃあないですか?」
「まぁ、もし売れ残ったらその時はまた考えましょう」
「え~!」
双子が不安そうに声を上げるのを聞きながら私は調理場に入った。実はこういう事態を想定して、すでに用意している食材があった。目の前にはたっぷりと水を入れたボウル。そしてその中には黒みがかった赤褐色の栗が複数、沈んでいる。
「一晩、水につけてたから、かなり柔らかくなってるはずよね」
薄茶色くなった水を捨てて栗をザルに上げた後、銅ナベに水を投入して火魔法で熱しお湯を沸騰させたら先ほどザルに上げた栗を熱湯に入れ、軽くゆでる。
ある程度、火が通ったら再び熱湯を捨てて茹でた栗をザルに上げる。風魔法で栗の粗熱を取ったら、まな板の上に栗を乗せる。栗の平べったい部分をまな板にピタリとつける形にして置き、まず栗の一番硬い底の皮部分に包丁で切り込みを入れる。長時間、水につけた事と熱したことで柔らかくなった栗皮は意外とあっさりと包丁が入る。
栗皮をそのまま切り落とさないように注意しながら切り込みを入れた後、包丁の刃で栗皮を押さえながら皮を剥いでやれば、まな板側に触れていた平べったい部分の栗皮は取りのぞける。
片側の栗皮を剥いだら、今度は剥いだ面を上にしてまな板に置いて、最初と同じように栗の一番硬い底部分に包丁を入れ栗皮を押さえながら皮を剥げば、ほぼ両面の栗皮が剥けた。




