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 スコーンを食べ終わり、アップルティーを飲み干したヴォルフさんは白磁器のカップをソーサーに置いた。柔らかな日差しを受けた銀色の前髪の間から、冬の湖を思わせるような蒼玉色の瞳がこちらをじっと見つめる。


「ところで先ほど、役人に対して『王宮にコネがある』と言っていたが?」


「ああ、コネがあるというか……。厳密に言うと学園時代に同じクラスだった親友が国王陛下の寵妃になったんです。その関係で王宮からケーキやお菓子の注文が入るようになって、噴水広場での営業もその一環で許可を頂けた感じですね」


「ほぉ」


 ベルントさんが感嘆した様子で私を見た。厳密に言えば、麻痺症状の原因が分からず宮廷医師にもサジを投げられ途方に暮れたローザが一縷の望みをかけて、私が作った経口補水液を所望した事と国王陛下の耳に麻痺症状の原因を見つけて取りのぞいた功績で今回、噴水広場での営業許可が頂けたのだけど……。


 仮にも王宮に出入りしている業者である私が、王宮で見聞きした事。特に国王陛下に直接、関わることを何でもかんでも第三者に話すというのは守秘義務の観点から非常に問題があると思われるので、私はすごくザックリとした説明をした。するとヴォルフさんは、やや眉をひそめた。


「寵妃? もしや、その寵妃と言うのは『ローザ』という名前か?」


「ええ、そうです。ヴォルフさんはローザをご存知なんですか?」


「いや。直接、面識がある訳では無い……。ただ最近、噂を聞いたから『寵妃ローザ』の名前は知っていたんだ」


「ウワサ……? へぇ、ローザって城下でウワサになってたんですか」


 国王陛下と相思相愛で、あんなにもレオン陛下を想い必死に看病をしていたローザの事だ。城下でウワサになっていても無理はない。そう思いながらティーカップに残っていたアップルティーを飲み干していると、ヴォルフさんは表情を曇らせた。


「そうか、セリナの親友が国王の寵妃……。だったら、あの噂はデマなのだろうな」


「ウワサって、どんな内容なんですか?」


「いや、ローザという寵妃が国王レオンに取り入って婚約者の伯爵令嬢フローラを差し置き、王妃の部屋に居座ったり国王を骨抜きにして意のままにあやつっているという話を酒場で町の者が噂してたんだが……」


「俺も同じような話をギルドの者たちが話しているのを耳にしたことがある」


 ヴォルフさんの話にベルントさんが同意して頷き、私は唖然とした。


「何ですかそれ!? 完全にウソですよ! ローザはそんな子じゃないです! 寵妃になったのもなりたくてなった訳じゃないし、国王陛下の意向で仕方なくだったんですよ!? 国王を意のままにあやつるなんて、とんでもない!」

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