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「ほぉ。アップルティーか……」
「はい。ウチで茶葉をブレンドしてるんです」
「これは……。リンゴの香りがすごいな。本当に茶葉だけでこんな香りが?」
「いえ、実はこのアップルティーは茶葉だけじゃなくて、リンゴの皮と芯もポットに入れてるんです。だから正確にはフレッシュ・アップルティーなんです」
「へぇ。良い香りだな。この香りがリンゴの皮と芯で出てるのか」
ヴォルフさんが感心した様子で呟いたので私はうなづいた。
「ええ。実はアップルパイを作る時にリンゴの皮や芯の廃棄がいっぱい出ちゃうんですけど、勿体ないのでルルとララや私がお茶を飲む時は、こうしてフレッシュ・アップルティーにしてよく再利用してるんです」
「フレッシュ・アップルティー……」
「はい。リンゴは『一日一個のリンゴで医者いらず』って言うことわざがあるくらい栄養価が高いし、こうして飲むことで少しでもリンゴの栄養が摂取できるなら健康的で身体にも良いですから」
そう言いながら白磁器のティーカップになみなみと注いだ琥珀色のアップルティーを出すと、ヴォルフさんとベルントさんはカップの取っ手をつまんで濃厚なリンゴの香りを楽しんだ後、ティーカップを傾けてアップルティーを一口飲み、目を見開いた。
「これは……。驚いたな」
「ああ、美味い」
「本当ですか? お口に合って良かったです!」
ルルとララには好評だったけど、基本的にあの双子たちは何でも「美味しい!」という子たちなので、一般的な感想がよく分からなかったけど、ヴォルフさんとベルントさんの反応を見る限り男性にも好評なようで胸をなで下ろす。
「このフレッシュ・アップルティーをここで提供するのか?」
「うーん。提供したい気持ちはあるんですが本来、廃棄するべきリンゴの皮や芯をポットに入れて出すのは、いかにも再利用という感じがするので……。商品として、これをそのまま出すことは出来ないですね」
リンゴの皮や芯は本来なら、そのまま生ゴミとして廃棄すべき部位だ。もちろん、こうやってフレッシュ・アップルティーに再利用する分には何の問題も無いし、むしろアップルティーが香り高くなって栄養面でも多少は良くなるはずだけど、お店の商品として出してお客に「ポットに生ゴミを入れてる!」なんてクレームをつけられたらたまらない。
身内で楽しむ分には構わないけれど、リンゴの皮と芯を再利用したフレッシュ・アップルティーを商品として提供すればトラブルとなる可能性があるので気軽に出せる物ではない。
「そうなのか」
「勿体ないな……。こんなに旨いし、香りも良いのに」




