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悔しそうにしながら「念の為、上にちゃんと噴水広場で飲食物を提供しても良いという許可が出てるか確かめておくからな!」という捨てゼリフを吐いて立ち去るチョビ髭の役人を見送り、パティスリー前と噴水広場に並べられたテーブルとイスを見た後、これらを設置してくれた銀髪の狼獣人と黒髪の熊獣人さんに視線を向ける。
「ヴォルフさん、ベルントさん。せっかくなので、ここでお茶と一緒にケーキも召し上がりませんか?」
「ここで? いや、こんな場所で男二人がケーキっていうのはちょっとな……」
「ああ。ケーキは一人で落ち着いて食べたい」
ヴォルフさんは噴水広場の周囲に通りかかる人の目を気にし、ベルントさんも公衆の面前であるオープンカフェでケーキを食べるというのは、かなり抵抗があるようで即座に断られてしまった。
そもそもオープンカフェ自体が珍しいのだ。まして男が二人きりでケーキを食べるというのは非常にハードルが高かったのだろう。これは失敗したと思いながら、苦笑いしつつ小首をひねる。
「そうですか……。じゃあテーブルを設置して下さったお礼に、お茶だけでも飲んで行かれませんか? 私もちょっと休憩したいと思っていたんです。ご一緒して頂けると嬉しいんですが」
「まぁ、お茶だけなら」
「そうだな……」
「すぐご用意します! ちょっと座って待っていてください!」
双子に店番をお願いして、パティスリーの調理場に入った私は即座に銅製ナベに水を入れると火魔法で沸騰させ、白磁器のティーポットにアップルティーの用意をして、お茶うけ用に数個のスコーンを窯で熱した後、皿に盛った。
そして銀色のトレイに白磁器のポットと受け皿、ティーカップ、スコーン用の自家製ジャムとハチミツを置き、素早く用意したティーセットを持ってヴォルフさんとベルントさんが待つテーブルに出す。
「お待たせしました! アップルティーとお茶うけのスコーンも用意しました。よかったらお茶と一緒にスコーンも召し上がって下さい」
オープンカフェでケーキを食べるのには難色を示していたヴォルフさんとベルントさんだが、スコーンならサイズも小さいし見た目も小さなパンという感じで目立たない。
食べたくないなら手を付けなければ良いと思ってダメ元で出してみたのだが、ベルントさんはスコーン用に出したハチミツに視線がクギ付けになっているので悪くない判断だったようだ。
そう思いながら白磁器のポットから琥珀色の熱いお茶をティーポットに注いでいると、ヴォルフさんとベルントさんが興味深そうに眺め、白い湯気の香りをかいだ。




