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「いいえ! お待ちください!」
「ローザ」
「確かに私はレオン陛下の耳から麻痺症状の原因を取り除きましたが、それはセリナの指示にしたがって行ったものです! セリナがレオン陛下に回復魔法をかけながら的確な指示をしてくれなかったら私は何も出来ませんでした!」
「レオンに回復魔法を……? まことですか!?」
回復魔法が使えると聞いた途端、王太后が興味津々といった様子で私に注目し始めた。
「いえ、その……。回復魔法といっても本来はちょっとした、かすり傷を治す程度しか出来ないのです。偶然、魔道具屋さんから魔力増強剤を頂いていたので、それを飲んで気休め程度に回復魔法を使っただけで……。私の魔法だけでは陛下をお助けするのは不可能でした」
「まぁ、魔力増強剤を使っていたの。ガッカリね……。魔力増強剤を使わずにレオンの麻痺症状を完治させたのなら中々、見どころがあるから後宮に入れてレオンの寵妃にさせたかったのだけど」
「母上!」
「ちょっと、そう思っただけではないですか……。私が何を考えようと心の中で思うのは自由でしょう?」
息子であるレオン国王にいさめられてリオネーラ王太后は憮然とした表情を浮かべているが、王太后という後宮の最高権力者が『ちょっと思っただけ』というのはイコール『ちょっとした思い付きで、他人の一生をどうにでも出来る』という事につながりかねないだけに国王陛下と王太后の会話を聞きながら、私は背中に嫌な汗をダラダラかいていた。何しろレオン陛下の意向で、すでにローザは寵妃にされているのだ。
つい先ほど、国王本人がハーレムを解散させて正妃としか子供を作らないと宣言したから、こちらに火の粉が降りかかってくる事は無いと思うけど、万が一『ハーレムは解散させるけどやっぱり寵妃は複数、持つ事にする』などと言いだせば、確実に世継ぎを誕生させたい王太后や宰相、重臣たちはもろ手を上げて賛同するだろう。この世界には国王や王太后の意向しだいで、何がどうなるのか分からない怖さがある。
「そうか。セリナが妃になれば……」
「ちょ……!」
私の横では王太后の言葉を聞いたローザが『今まで気づかなかったけど、それは良いアイデアかも』みたいな顔で、やや下を向きながらブツブツ呟いているのが怖すぎる! 何が悲しくて相思相愛の国王とローザの間に私が寵妃として放り込まれなければならないのか意味が分からない!
赤髪の伯爵令嬢フローラは殺意のこもった鋭い目でこっちを見てるし、右を見ても左を見ても地獄なのかと、あまりのカオスっぷりに私は涙目になった。




