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重臣たちが顔をしかめながら声を潜めてささやき合っているのがフローラにも聞こえたのだろう。赤髪の伯爵令嬢は得意満面な表情を浮かべている。
「人間ならば一夫一妻が当たり前ですから、ローザがレオン陛下に正妃を自分にして、正妃以外の女は陛下のお側にはべらせないようにと申したのかも知れませんが、金獅子国の王たるお方が妃を一人だけにするなど現実的ではございませんわ! 陛下のおっしゃる通り、ハーレムは解散させるにせよ。必ずしも妃を一人だけにする必要があるとは思えません!」
「私も正妃を一人だけにして、他に寵妃を持たぬなど反対です」
「リオネーラ王太后様!」
赤髪の伯爵令嬢の主張を支持したのはレオン国王の母である王太后だった。フローラはこれ以上ない心強い援護の声に瞳を輝かせ、金髪の国王は思わぬ伏兵に眉根を寄せた。
「レオン。あなたは寵妃ローザを正妃にしたいと申しましたが、その娘は確か魔力が非常に低かったですね?」
「それは……」
「つまり、寵妃ローザから御子が産まれたとしても魔力が非常に低い可能性が高いという事です。寵妃の子供ならそれでも構いませんが正妃の御子が皆、魔力が低いなど……。まして、ローザ以外に御子を産ませないなど考えられません!」
「母上……!」
「寵妃ローザよ」
「はい」
「あなたは産まれてくる御子のことまで考えて、正妃になりたいと思っているのですか?」
「私は、正妃になりたいなんて思ったことはございません」
「ローザ……」
王太后からの問いかけにうつむきながらも、はっきりと答えたローザに金髪の国王は愕然とした表情を浮かべた。
「御覧なさい。寵妃ローザは身の程をわきまえていますよ?」
「しかし!」
「ま、まぁ、何もかも今日、決定するというのは早急でございます……。ハーレムの件に関しては国王陛下一人に対して後宮に千人もの娘がいるのは確かに、いささか人数が多いでしょうから、ひとまず縮小という方向にしては如何でしょうか? 妃の件もお世継ぎ問題が関わる大事……。決定には会議が必要な案件かと存じます」
銀髪の宰相が手にしたハンカチで冷や汗を拭いながら妥協案を提示すると、国王は溜息を吐いて頷いた。
「そうだな……。後宮にいる千人もの娘が突然、外に放り出されても行くあてが無い者もいるだろう……。実家に帰ることが可能な者は出来るだけ早く帰るように通達を出してくれ。後宮を出て外で働きたいという者には可能な限り再就職先の斡旋を……。行くあてが無い側女は後宮の召使いとして雇用を続ける方向になるだろう。ただし、後宮にとどまっても国王の寵妃として王子を産む機会は無いと思ってもらおう」




