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「フルオライト伯爵令嬢……。自分の胸に手を当てて考えてみよ」


「え?」


「余が麻痺症状で臥せっていた時、そなたが見舞いに来たのはたったの一度だったな? しかも、直後にライガと共に部屋を出て行き後日、余が崩御してライガが新王になった暁にはライガの正妃にという約束まで取り付けていたのを余が知らぬと思っていたか?」


「なんですって!?」


「まことでございますか!?」


 これにはリオネーラ王太后も宰相も重臣たちも唖然とし、広間にいる者たちも一斉にザワめいた。


「そ、それは……。あの時、レオン陛下がもう余命いくばくもないとお医者様にも宣告されたという状況でしたし、病床で苦しむレオン陛下をただ見ているだけというのは、あまりにも心苦しかったからですわ……。それに次期新王となるライガ殿下とそういうお話になればフルオライト伯爵家としては、お断りできる立場ではありませんもの……」


「伯爵家、か……」


 しどろもどろに答える様子を、白い目で見るレオン国王にフローラはきつくにらみ返した。


「そもそも! 私はレオン陛下が崩御した場合に限ってライガ殿下との婚姻を考えるということでした。決してレオン陛下との婚約期間に不貞行為を働いた訳ではございません!」


「不貞行為を働いていないまでも、麻痺症状で臥せっていた余を顧みず保身のみを考えて動いていた、そなたを余の正妃にしようとは思えぬ。それに引き換え、ローザはずっと回復する見込みが無いとまで言われた余を看病を続けてくれた。どちらを正妃にしたいかは誰が見ても明らかであろう?」


 赤髪の伯爵令嬢は毅然と反論したが、金髪の国王はみじんも心を動かされた様子が無く、伯爵令嬢フローラの劣勢と国王陛下との婚約解消、もしくは婚約破棄は間違いないと広間にいる誰もが思った。しかし、赤髪の伯爵令嬢は薄い唇を歪めた後、ゆっくり口角を上げた。


「それはどうでしょうか……」


「なに?」


 昏い目をした伯爵令嬢の反論に、国王は不快そうに眉をしかめた。


「レオン陛下がローザを寵妃にしてから、それなりの日数が経っております。陛下は常にローザを近くに置いておりますが、陛下から連日、寵愛を受けているにも関わらずローザが妊娠しているという兆候はございませんわよね?」


「そういえば……」


 伯爵令嬢の指摘に銀髪の宰相や重臣たちは、互いに顔を見合わせている。


「陛下は妃が一人なら、生まれて来る兄弟が争う事態になる確率は低くなるとお考えのようですが、そもそもローザがきちんと子供を産むことが出来る身体なのか、まだ分からないではないですか? 国王陛下の言う通りローザを正妃にしても、ローザが御子を産めなかったら金獅子国の世継ぎが一人も生まれないという事態になってしまいますわ。それはあまりにもリスクが高いのではないですか?」


「言われてみれば」


「確かに……」


「妃をたった一人にして、御子が生まれなかった場合は一大事だぞ」

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