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「王立学園に通う誇り高い紳士淑女の諸君はくれぐれも、そのような恥知らずな行為はしないように」
「フン。このような実に頼らなくても、私なら何の問題もありませんわ」
教壇に立つ、先生の話を聞き終わった後、つぶやいた伯爵令嬢フローラの言葉には同意できる。確かに、こんな実に頼らなくても魔力量の多い人間はまったく問題ない。
むしろ、あれだけの短時間ほんの少し魔力を上げるメリットというのは、あまり無いだろう。まして流通量が少ない実ならば、値段も高いはず。高額な値段で買い求めてまで欲しいシロモノでは無いだろう。
しかし、逆に考えると『魔力を高くする実』というのは『魔力が高い人間が、その実力をごまかす』ことが可能なのではないかという考えに思い至る。
例えば、私が中級以上の魔法を使ってるのを他人に見られた時に、こう言えばいい。
「あ、さっき『魔力の実』を食べたので魔力が一時的に高くなってたんです!」
これだ! これさえあれば、万が一の時も魔力の高さをごまかせる! そう思った私は密かに授業で配られた魔力の実をポケットに入れた。いざという時の『お守り』がわりである。
思いがけず入手できた『魔力の実』だが、たった一粒というのは心もとない。流通量が少ないとはいえ、れっきとした植物なので、上手く栽培できれば増やすことが可能なのではなかろうか。
確か、植物の育成効果を高める土魔法と言うのもあったはず。学園の図書館で植物育成の土魔法を調べて、魔法を使いながら『魔力の実』を増やそう! そんなことを考えていたら放課後、ローザに声をかけられた。
「セリナ、一緒に帰ろう」
「ごめんなさいローザ。ちょっと調べたいことがあるから、今日は先に帰って」
「調べたいことって?」
プラチナブロンドの髪をゆらして小首をかしげるローザに、はやる気持ちをおさえ、かいつまんで説明する。
「土魔法についてよ。図書館で調べようと思って」
「そっか……。セリナって熱心ね。がんばってね」
「うん。ありがとう」
魔法について調べるのだと言えば、ローザはあっさりと帰宅を選んだ。まぁ、魔法について調べても、ローザはほとんど使うことができないのだから無理もない。
笑顔でローザと別れた私は、学園の図書館で土魔法の魔導書を読むと同時にと『魔力の実』について調べた。基本的に『魔力の実』は土と適量の水、適切な日光に加えて種の段階から水に魔力を注ぎ、その魔力が満たされた水で育てるということだった。