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 怒りのまま叫んだが長髪の侍従は切れ長の瞳で冷ややかにこちらを一瞥した後、慇懃に一礼した。


「私の主はレオン国王、ただお一人。主の命令に従ったまででございます」


「貴様っ!」


 あれから何度か国王の寝室に容態を見に行こうとしたが、そのたびにトーランスが何かと理由をつけて引き留めていたのはこういう事だったのかと、今さらながら気づき歯ぎしりしていると国王は右手で金髪をかき上げた。


「すでに三日前の晩には動けるようになっていたのだが、さすがに万全では無かったのでな……。麻痺症状から回復した事実は伏せていたのだ。余がじゅうぶん動けぬ内に回復しつつあると聞けば、そなたはすぐ止めを刺しに来ただろう?」


「くっ!」


「話はすべて、そこにいるセレニテス子爵家の令嬢から聞いた。余を麻痺症状による呼吸不全で亡き者にしようと画策し、第三王子ブランシュ、および第四王子ダークを手にかけたそうだな」


「……ブランシュが殺害された時、室内には私とダークと三人しかいなかったのだ! 私がブランシュを殺害したという証拠は無い!」


「この後に及んで、まだそのような言い逃れを!」


 侍従トーランスが声を荒げたが下級貴族の娘、一人の言葉だけで王弟を処分するなどありえぬ。


「言い逃れではない! それとも何か? 国王陛下は決定的な証拠もなく、子爵令嬢の証言のみで王弟に罪を着せると言うのか?」


「証拠ならあります」


「なに?」


「ダーク王子から私が預かった宝刀。これが証拠です」


 子爵令嬢セリナが大粒のエメラルドがはめ込まれた三日月型の宝刀を見せつければ、金髪の国王は刀身に血糊がついたそれを見た後、こちらに視線を向けた。


「子爵令嬢セリナが持ってきてくれた三日月型の宝刀。この曲線の刃と第二王子ブランシュが咽喉を刺された時の創傷は完全に一致している」


「創傷……」


 第三王子ブランシュが死んだ後、遺体は地下の遺体安置室に保管されていた。国王が病床に臥せっている為、王弟の葬儀が出来なかったからだ。国王の命令で侍従トーランスが密かに動き、咽喉の傷痕と三日月型の宝剣が完全に一致するか、すでに調べ終わっていたのだろう。


「ブランシュが殺害された直後、殺害現場である国王執務室に入った近衛兵二人が、ブランシュ殺害の凶器である三日月形の宝刀はライガが手にしていた事を証言してくれた。そうだな?」


「はい」


「確かに我々が執務室に入った時、三日月型の宝刀はライガ殿下が所持しておられました」


「貴様たちは、あの時の近衛兵!」


 国王の側に控えていた二人の近衛兵はブランシュを殺害した時に、国王執務室の前を警護していた者だった。この者たちからも話を聞いて裏付けを取っていたのかと愕然とする。

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