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「なるほど……。確かに第四王子ダークがブランシュを殺害したという話には綻びが生じたようだ……。だが、その綻びを消せば問題無いな」
「え?」
「こんな所まで、わざわざ単身やって来るとは殺して下さいと言ってるような物だろう! 馬鹿な女だ! 死ねっ!」
腰に帯びている長剣を抜刀し、眼前の子爵令嬢を叩き切ろうと剣を振りかざした瞬間、客間のドアが開くと室内に猛烈な暴風が吹き荒れた。
「なんだ、この風は!?」
気を抜けば吹き飛ばされそうな程、強い暴風に両脚を踏みしめて耐えていたが、ついにこらえ切れず吹き飛ばされた。
「うわぁぁぁ!」
暴風に飛ばされ、背後のガラス窓に身体を叩きつけられる。天井に届くほどの高さがある半円アーチ窓が暴風と大の大人が叩きつけられた衝撃で高い音を立てながら窓枠ごと砕け散った。
「ぐぁ!」
石造りのテラスに粉々に砕けたガラスや窓枠が散乱する中、背中にガラス片が複数個所、刺さったのであろう痛みに思わず呻いた。
「今のは……? そうか、風魔法か! 子爵令嬢ごときが小癪な! だが、第二王子であり、次期国王でもある者にこのようなマネをしておいて、この王宮から生きて出る事が出来ると思うなよ!?」
「そうでしょうか?」
「何だと?」
落ち着き払った子爵令嬢の態度に、怒りのあまり目元がヒクつくのが自分でも分かった。必ず、この小生意気な子爵令嬢を地べたに這い蹲らせてやる。
強い殺意を抱きながら剣の柄を握る手に魔力を込める。雷魔法で長剣に雷を帯びさせ、今度こそ息の根を止めてやる! そう思った時、高い靴音を響かせて客間に入ってきた者がいた。
「そこまでだ。ライガ」
「なっ! まさか、レオン兄上!?」
マントをなびかせながら颯爽と姿を現したのは、青い宮廷服を身にまとった金髪の国王レオンだった。ほんの三日前まで呼吸すら困難な様子で指一本動かすことが出来ず寝台に臥せっていたというのに、自分の脚で平然と立っている様子に唖然とする。
「こうして会うのは久しぶりだな。ライガ」
「馬鹿な! レオン兄上は麻痺症状と呼吸困難で死にかけていた筈では……?」
「麻痺症状と呼吸不全の原因となっていた『魔ダニ』に関しては三日前、ローザが取りのぞいてくれた」
「三日前!? そんな話は聞いていない!」
先ほども侍従のトーランスが国王は容態が悪化して、面会謝絶状態だったと報告していた。そう思っていると、その侍従本人がレオン兄上の後ろから姿を現した。
「はい。ライガ殿下には、陛下が回復した件をご報告いたしませんでしたから」
「トーランス! 謀ったのか!?」




