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 天井から植物の形をモチーフにした豪奢な黄金のシャンデリアが吊るされた客間で、赤毛の伯爵令嬢フローラはコバルトグリーンの椅子に座りながらこちらをじっと見つめた。


「ライガ殿下……。レオン陛下のご様子はいかがでしょうか? 私、レオン陛下があまりにもおいたわしくて、あれからお見舞いに行くのもつらくて」


「正直、かなり悪い状況です。医師も手を尽くしましたが最早どうすることも……」


「ああ! やっぱり! なんてこと」


 伯爵令嬢は椅子の手すりを握りしめて、うなだれた。その様子を見ながら側で控えていた侍従に目を向けた。


「トーランス」


「はっ」


「おまえは今朝、国王陛下の寝室に様子を見に行ったのだろう? レオン兄上の様子はどうだった?」


「寵妃ローザ様によればレオン陛下は一度、持ち直していたそうなのですが、今朝からまた呼吸困難に陥ったそうで面会は遠慮してほしいと告げられました……。看護に集中させて頂きたいとの事で、国王陛下のお顔は拝見できていないのです」


「ふむ。そうか……」


 寵妃ローザにレオン兄上の看護を一任すると告げて侍医を下がらせてから、すでに三日が経過している。正直、これほど長く持つとは思っていなかったので些か驚くが、こちらの胸中など知る由もない赤毛の伯爵令嬢は三人掛けソファに座っていた私の真横に移動して、すがりつくように腕に触れてきた。


「私、国王陛下の婚約者として精一杯がんばって来たんですのよ。それなのに、このような仕打ち……。運命の神様はあまりにも理不尽ですわ」


「フルオライト伯爵令嬢」


「ねぇ、ライガ殿下……。私の魔力は金獅子国に住む貴族令嬢の中でも、最も高いと言われておりますのよ? 宰相閣下やリオネーラ王太后をはじめ重臣たちも国王陛下の婚約者にと推して下さった、この私が後宮から去るのは惜しいと思いませんか?」


「ふむ……」


「もし望んで下さるなら、私はライガ殿下が新王になった暁には誠心誠意、お仕えいたしますわ」


「確かにレオン兄上が亡くなるなら、伯爵令嬢フローラと国王の婚約も無効になる」


「その通りですわ。私、レオン陛下が崩御されても実家に帰りたくはないのです……。ライガ殿下、私をお側に置いて下さいませ」


「このまま後宮に残りたいと? つまり次期新王のハーレムに入るということで?」


「ええ。でも寵妃はイヤですわ。私の言ってる意味、分かりますわよね?」


 伯爵令嬢フローラの真っ赤な唇が間近に迫り、こちらを値踏みするように覗き込まれた。確かに、生まれて来る王子は魔力が高いに越した事は無い。


「……よろしいでしょう。レオン国王の正妃になるはずだった貴族令嬢ならば申し分ない。現王レオン陛下が崩御して喪が明けたら婚約した後、伯爵令嬢フローラを正妃に迎えると公式に発表しましょう」


「嬉しい! ありがとうございます。ライガ殿下! 私、きっと良い正妃になりますわ!」

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